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できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

9月16日付けの投稿(転載その2)

2006-09-20 08:05:17 | 過去の記事の転載

さて、それでは「授業」を始めます。

前回、前々回に引き続き、大阪市の例の「監理委員会」が8月末に出した「まとめ」の添削、あるいはコメントをつける作業を行いながら、これがいかに「内容がないか」「内容に問題が多いか」を指摘していきます。

前回は「まとめ」9~10ページの「青少年会館」の部分を取り上げましたので、今日は「まとめ」の10ページ、「保育所における職員配置」の「今後のあり方」からいきます。

また、前回同様、以下の文中では、赤字部分が「まとめ」の文章、黒字部分が私のコメントや添削、青字部分が関係者のみなさんへの私からのメッセージです。

<以下「保育所における職員配置」の「今後のあり方」から>

・人権保育推進担当保育士

A:人権保育推進のモデル的保育所として、人権を大切にする心を培い、障害児保育・多文化共生保育等の推進を目的としてきた。

B:一方、平成11年度から一般保育所において、国の定める保育所保育指針に基づき、所長を中心に、家庭や地域と連携しながら人権課題を含む児童の心身の健康を培う保育体制の整備に努めてきた。

C:こうした中、保育所のみに配置してきた人権保育推進担当保育士については、平成18年度末を持って廃止すべきである。

住友コメント:このA~Cの記号は、私でつけたもので、原文にはない。

 そもそも、AとBとの関係はただ「事実」を述べただけで、それだけでなぜCのような結論に達するのか。私にはその論理がわからない。

 なぜなら、Aでいう「人権保育」の内容と、Bで行っている「人権課題を含む児童の心身の健康の基礎を培う保育体制」の内容とが、はたして現場レベルで同じものなのかどうか。字面だけ見ていれば「似てる」といえるのだろうが、実は「似て非なるもの」ではないのだろうか。

 ついでにいえば、保育所保育指針にある以上、Bの取り組みは既存の「保育所」でもやっていることである。それに加えてAの取り組みを行うのは「優遇措置」でもなんでもなく、そこに「人権の諸課題」を抱えた子どもや保護者たちが集中的に現れているからではないのか。そして、本当に全市的に子どもの人権をめぐる諸課題の解決を考えるのであれば、A・Bの両方を市内の全保育所で実施するくらいの提案があってしかるべきである。そうでないなら、これは「どこででもやっている」Bのレベルに市の保育施策を「後退」させるものであるといわざるをえない。

 そもそも、「監理委員会」は、国の定める保育所保育指針にもとづいて、ほかの一般保育所で取り組まれている「人権保育」の中身が、はたして「保育所」で推進されてきた「人権保育」と、「同レベル」にまで進んでいるものなのかどうか。その検証作業をしたのであろうか。ジャーナリストに弁護士などの外部委員、あるいは、市の局長級でも福祉や保育畑ではない内部委員が、市の関係部局からあがってきた文書の字面だけ見て、「これ、おんなじや」と勝手に判断して、こういう結論を作ったのであろう。

・子育て家庭支援推進担当保育士

D:地域交流事業の充実や子育て相談及び情報提供、保護者交流の促進及び関係機関と連携した子育て困難家庭の支援等の事業を実施し、地域の子育て家庭に対する支援を推進することを目的としてきた。

E:一方、子育て家庭に対する育児不安等についての相談指導、情報の発信等を行う国事業の「地域子育て支援センター事業」を平成13年度から実施しており、大阪市次世代育成行動支援計画において、平成21年度までに70ヶ所の西部を目標としている。

F:地域における子育て支援の拠点として「地域子育て支援センター事業」を進めており、その状況を踏まえ、保育所のみに配置してきた子育て家庭支援推進担当保育士については、平成18年度末をもって廃止すべきである。

住友コメント:またD~Fの記号と、重要なところに私のほうでアンダーラインを引いた。

 この文章からは、「ああ、要するに、監理委員会は、できるだけ大阪市の持ち出しになる保育施策は全部やめにして、国の補助事業の範囲だけで保育施策をやりたい、ということなんだな」ということがわかる。

 そもそも、Eで書いている国事業の「地域子育て支援センター事業」と、Dのアンダーライン部分にあるような「子育て家庭支援推進保育士」のになっている仕事は、重なる部分もあるだろうが、ちがいもおおきい。

 私の印象からすると、Dのほうがもっと子育ての困難度がハードで、児童相談所も含めた関係機関との連携により支える必要のある家庭を対象とした、いわゆる「ケースワーク」的な視点での事業を展開しているのではないか。そう考えると、Dのほうは、Eのような国の一般的な施策よりも、一歩も二歩も踏み込んだ「子育て支援」をしているのではないかと考えられる。そして、そういうDのような独自の施策が必要なのは、その地域にケースワーク的な対応が必要な「子育て困難家庭」が多数ある、という実態を反映しているとも考えられるのである。

 それを無理やり、字面だけを見てDとEとをくっつけ、Dの取り組みを廃止するというのは、「現場を知らない机上の論理」だからこそできることである。

 ましてや、大阪市内に公立・民間をあわせて、保育所は何ヶ所あるのか。「地域子育て支援センター事業」が行われる70ヶ所なんて、西成・東住吉・平野の3区にある公立・民間保育所の総数とほぼ同じくらいである。大阪市内の保育を必要とする子どもと保護者の数を数えると、それでもたった70ヶ所でしかないのである。そんなことまで、「監理委員会」はきちんと計算したのか。だから、本来であればEの施策自体をもっと大阪市内全域で充実させるべきであるし、その上に重点的な取り組みが必要な家庭の多い地区には、Dの取り組みを行うべきなのである。したがって、ここの記述も、大阪市の保育施策の全体水準を低下させるだけ、といわざるを得ない。

 ついでにいうと、「自分たちの施策にとって都合のいいところだけ、次世代育成支援行動計画を持ち出すな!」と、「監理委員会」や大阪市当局に言いたい。なぜなら、青少年会館も「次世代育成支援行動計画」に位置づく立派な「子育て支援の拠点施設」のひとつであるし、先日廃止が決まった「トモノス(勤労青少年ホーム)」や「児童館」だって、その拠点施設のひとつなのだから。「大阪市よ、本当に次世代育成支援行動計画を実施するつもりがあるのか?」と、こういう文章を見ると本当に疑ってしまうのである。

・就学前教育推進担当保育士

 ここは省略する。なぜなら、「これじゃ『単位』はやれないな」シリーズの1回目で取り上げたのが、ここの部分だから。前にも書いたとおり、ここの部分は、内容以前に、「日本語」として読めない文章のレベルである。

 ついでにいうと、「保育所・幼稚園と小学校の連携」とか「家庭・地域と保育所・学校などの連携」といった課題への取り組みは、実は国の教育政策レベルでも求められている取り組みである。それを、「ただ単に保育所だけでなく、全市的に展開する必要がある」ということで、「就学前教育推進担当保育士」を「全市内の保育所に配置できるようにする」というのであれば、私としては筋の通った意見だと思うが。

 もうひとついうと、「監理委員会」の「まとめ」は、「全市的に核家族化の進行や厳しい雇用情勢等により家庭の子育て力の低下による児童虐待、育児放棄等の事象も年々増加しており、配慮を要する児童や保護者に対する支援の充実が必要とされている」とここでいう。だとするならば、そういった「配慮を要する児童や保護者に対する支援」が「特に重点的に求められる保育所」に対しては、上述のDのアンダーライン部のような取り組みが必要とされるのではないか

 「監理委員会」は、ここの部分でもって、自分たちが保育士加配を否定しようと持ち出した事実でもって、逆に加配の必要性を語っているとも考えるのであるが、その論理的な矛盾に気づいているのだろうか。もし気づいていないとしたら、「こりゃだめだ」というしかない。

・保育所入所について

 すべての保育所は、平成19年度保育所入所申請(平成18年度実施)から、予定どおり各保育所又は区役所で入所申し込みを受け付けるべきである。

住友コメント:この「まとめ」の保育所関係の内容で、唯一「まとも」という部分は、ここぐらいである。それも、わざわざここであらためて強調して書くまでもないような内容である。

とまぁ、今回もこんな具合で、ボロボロに「まとめ」は批判されましたね。

それもそのはずで、だいたい、この「まとめ」の取りまとめにあたって、「市の政策的課題」について関連部局からのヒアリングを行ったのは、8月11日のたった1回。いろんな部局にまたがってかつての「」施策があったとすれば、この11日の、各部局ごとの説明時間は十数分程度しかなかったでしょう。その上で、書類だけを見て、8月30日・31日に集中審議をして、「まとめ」を出したわけです。だから、「まとめ」の中身がボロボロ、実に問題の多いものであっても、「まぁ、もともと、そんな政策的課題の検討について力量のない委員会にそんな仕事をさせたのが間違い」というしかないんですよ。

そして、昨日の朝日新聞の朝刊を見ていたら、大阪市の関市長は、この「まとめ」について、「的確な判断をいただいた。真摯に受け止め、実行したい」といったとか。「大丈夫か、この人、ちゃんと中身読んでそういっているのか?」と私などは思ってしまいますね。

そうそう、これは「宿題」です。今まで3回、青少年会館と保育所について、大阪市の「監理委員会」が出した「まとめ」にコメント、あるいは添削を入れましたが、こういうコメントをつけたり添削を入れたりする作業は、ほかの人でもやろうと思えばできます。だから、まだ「人権文化センター」「地域老人福祉センター」「障害者会館」「学校の職員加配」など、多様な課題が残っているので、ほかの人でどんどん、コメントあるいは添削をしてみてください。そして、ブログをつくるのはとっても簡単なので、インターネットを使いこなせる人は、その添削やコメントの内容を、どんどんネット上で公開してくださいね。これが、今日の「宿題」です。みなさん、ちゃ~んとやってくるんですよ。

次回は、先ほど紹介した大阪市長の9月14日付朝日新聞朝刊でのインタビュー記事に、私なりに添削・コメントをしてみましょう。

というような次第で、今日の授業はここでおしまい(笑)

<追記> アクセス解析によると、あるサイトからここへリンクを経由して出てこられた方がいるようですが、そのサイトを運営されている方と私とでは、ずいぶん、立場がちがいます。その点、お断りしておきます。ちなみに、そのサイトの運営者の方は、今年5月ごろ「これこそ公平・中立の立場」と私のことを持ち上げておりました。このことも、あわせてお伝えしておきます。ところで、そのサイト運営者の方、あのとき「公正・中立」と私を持ち上げた、あのコメントについて、今、どう考えているんでしょうね?(笑)

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