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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

成立した教育行政基本条例8条の趣旨は大阪市の市政改革素案の内容と矛盾する。

2012-05-26 11:23:04 | ニュース

http://blog.livedoor.jp/woodgate1313-sakaiappeal/archives/7534085.html

昨日の大阪市議会で、大阪維新の会と公明党の市議団の賛成により、まずは教育行政基本条例案が可決・成立しました。修正が行われたようですが、どんな修正かは、上記の「堺からのアピール」ブログを見てください。

なお、学校活性化条例案については、今回は議決を見送って継続審議になったとのこと。簡単に市長提案(もちろん、維新の会サイドも支持ですけど)の条例案が通らなくなっているという点で、少し、風向きが変わってきたのかもしれません。まあ、もっとも、職員基本条例案を維新・公明・自民の三会派で可決成立させているところもあります。教育行政基本条例案には賛成しなかった大阪市議会の自民党市議団も、職員基本条例案には賛成ですから、今後、注意深く議会の動きを見守る必要があります。

ちなみに、上記のページを見ますと、正直なところ、「根本的なところは何も変わってないし、前文を修正してより悪くなった」という印象です。

この前文の修正により、前よりもさらに今後、かなり無理難題を子ども、あるいは子育て中の家庭にふっかけるような行政改革が行われて、大阪の地域社会が矛盾に満ちてきたとしても、それを自分たちの責任と判断で切り開いていく。そのような、いわゆる「自己責任」論的な価値観を受け入れて生きろと子どもに説く、そういう大阪市の教育への道が開かれました。

また、こういう矛盾に満ちた社会にあっても、規範意識や義務、責任を強調し、「きまりだけは守れ」といって、そういう社会をつくってきた側への抗議の声を上げにくくするような、そんな大阪市の教育が行われる道もできてしまいました。

もっとも、このような道は、自公連立政権の頃といいますか、特に教育基本法改正やその前後あたりからの一連の教育改革のなかでつくられてきたもの。大阪市のこの条例などは、そうした道をかなり極端な形で推し進めているものだということは、いままでこのブログで述べてきたとおりです。(そういう意味では、大阪市議会の自民党市議団が、教育行政基本条例案には賛成しなかったという点、ここに注目する必要がありますね。もっとも、今の改正後教育基本法の趣旨に則れば、あえて条例などつくらなくとも似たようなことはできる、と彼らは言いたいのかもしれませんが。)

それこそ、この条例をつくった人々は、前文でいう「子どもについて、その個人としての尊厳を重んじ、その意見を尊重する」ということが、同じく前文でいう「規範意識」「義務」などの中身と対立しあうという局面があることを、いったい、どこまで考えたことがあるんでしょうか?

たとえば今後の大阪市の学校において「こういう規範意識が大事だ」と教え込もうとした中身が、子どもの個人としての尊厳を損ねたり、「それってなんか、おかしい」という意見を子どもが言いだしたりしたときには、さて、子どもの個人としての尊厳や意見の尊重と、規範意識や義務の中身、どっちを優先するんですかね??? 

なんかこういう風に、教育の思想的なといいますか、あるいは教育の原論的な部分からつきつめて物事を考えていけば、この条例の中身って「ほんとうに大丈夫なの?」と思うような代物。それをまあ、一部修正したとはいえ、よく賛成したものだと、私などは賛成した会派の議員のみなさんに言いたくなってしまいます。

それから、前々から書いていますが、この教育行政基本条例第8条の趣旨からすると、今、パブリックコメントを受け付ける手続きをすすめている大阪市の市政改革素案の中身、あれはかなり見直さなければならなくなると思うのですが。そういう政策面での整合性って、市議会としてきっちり検討されたのですかね????

たとえば、前にも書きましたが、この教育行政基本条例第8条の3項。これって、市教委に対して、市長との協力のもとで、青少年や成人の学校外の学習活動、つまり社会教育・生涯学習の振興を求める条文です。

とすれば、この条例の趣旨に沿って考えるならば、市政改革素案のなかにある市民の学習施設の統廃合や民間委託等の提案については、「いったん、ストップ」ということにしなければ、政策的な整合性はとれません。

具体的に言えば、クレオ大阪や生涯学習センター、市民交流センターなどの各館、青少年の野外活動施設、人権博物館や音楽団、学校地域支援本部などの諸事業にかかわる予算、文楽などの文化的な活動にかかわる補助金などが、こうした社会教育・生涯学習の振興にかかわる予算だと思うのですが、こうしたものを簡単になくすことは、教育行政基本条例8条3項の趣旨からするとできないのではないでしょうか。

同じく8条2項についても、「家庭教育支援条例案」を別途つくるような無茶なことをしなくても、たとえば既存の子育て支援・学習の場づくりに関する諸事業の見直し、施設などの統廃合をやめるだけで、いろんな形で「家庭の教育力向上」につながるのではないでしょうか。ところが、市政改革素案のなかでは、たとえば子育ていろいろ相談センターの廃止提案などを含めて、いくつかカットされる方向でしたよね。

というような次第で、私としてはいまだに、なぜこの条例案に市議の方々が賛成できたのかわからないです。また、この条例案に賛成した市議のみなさんは、今後、市政改革素案に対してどういう態度をとるのか、「まさか、市政改革素案のなかの家庭教育支援や社会教育・生涯学習関連施策を打ち切る部分、これに賛成するんですかね? 賛成するとしたら、教育行政基本条例の趣旨をどう理解して、あれの可決に賛成したんですかね?」と言いたくなってしまいます。

今日のところはひとまず、このあたりでとどめます。


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