できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「グレート・リセット」をリセットしたい

2012-04-08 11:11:17 | ニュース

例のねつ造リスト問題で大阪維新の会がこちらには理解できないような対応をしたり、特別顧問らの調査チームが「なんじゃこれ?」と思うような調査報告書を出して、違憲の疑い濃厚なアンケートのデータを「廃棄」してる間に、大阪市は、こんなとんでもない試案を出してきました。

http://www.city.osaka.lg.jp/shiseikaikakushitsu/page/0000163563.html (施策・事業の見直し(試案)~市役所のゼロベースのグレート・リセット~)

私としては、この試案それ自体をリセットしたい。つまり、「グレート・リセットをリセットしたい」というのが、率直な思いです。

この試案の詳しい内容は上記のホームページで確認していただくのがいいとして、今後「打ち切り」「縮小」「廃止」等々、なくなりそうあるいは後退をしそうな子ども・若者関連の施策、あるいは人権に関する施策の主なものを列記すると、次のとおりです。所管局別の資料のほうから、気づいたものを抜き出してみます(抜けているものがあるかもしれません)。

・大阪市立大学への運営費交付金の削減。

・男女共同参画センター(クレオ)5館、市民交流センター廃止。

・地域コミュニティづくり事業の縮小。

・社会福祉協議会への交付金(市及び各区)の削減。

・長居障害者スポーツセンターの廃止、舞洲障害者スポーツセンターの一部廃止(宿泊施設部分)。

・民間保育所の職員給与への補助金の削減。

・児童いきいき放課後事業のうち「子どもの家」事業部分の縮小、スリム化。

・留守家庭児童対策、すなわち学童保育への助成金の削減、スリム化と統合(児童いきいき放課後事業へ)。

・子ども・子育てプラザの縮小(24館から18館へ)。

・ファミリーサポートセンター事業の縮小、スリム化(他の子育て支援事業へ)。

・1歳児保育特別対策費の廃止。

・障害のある18~20歳の人のいるひとり親家庭への水道料金減免措置などの廃止。

・子育ていろいろ相談センターの廃止。

・教育相談事業の縮小。特に「サテライト」での教育相談の廃止と、「サテライト」の実施場所を14か所から9か所に縮小(=旧「ほっとスペース事業」の縮小。これは、ほっとスペース事業の発足に私、かかわってきただけに、許せない!)

・公立幼稚園の民間委託を前提としての維持運営費等の廃止。

・青少年野外活動施設の廃止。

・各区の区民センター、スポーツセンターやプールの見直し(特別区が導入されるのにあわせて再編)。

・環境学習センターの廃止。

・新婚世帯への家賃補助の一部廃止。

・キッズプラザの運営補助の廃止。

・学校元気アップ地域本部事業の縮小、スリム化。

・「多様な体験活動の実施」にかかる予算の廃止。

・外国語指導助手に関する事業の縮小、スリム化。

・子どもの安全指導員に関する事業の再編(各区で検討)。

・学校給食協会交付金の見直し(=保護者負担増の方向での「受益と負担」の再検討、学校給食の民間委託の検討)。

・市立高校及び市立特別支援学校の府立移管を前提としての非常勤講師、スクールバス等の予算の廃止。

・学校6校の統廃合を前提とした公立学校の「一般維持運営費」の縮小・スリム化。

・総合生涯学習センター、市民学習センターの廃止・民間移管。

・公立保育所の保育料軽減措置の見直し(=保護者の負担増へ)

このほかにも、たとえば、市の音楽団の廃止や文楽協会、大阪フィルハーモニー協会への助成金削減なども含まれています。

いかがですか? これが子ども・若者施策や人権施策・教育施策などに注目したときの橋下改革の実情、大阪維新の内実です。次々に子どもや若者の暮らし、人々の学習や文化などに関する予算が切られ、施設がなくなっていくことがおわかりいただけるかと思います。

特に私が注目したいのは、区民センターや総合生涯学習センター・市民学習センター、クレオ大阪5館、市民交流センターといった、市民の集会・学習施設の廃止や民間移管ということ。

このうち総合生涯学習センターや市民学習センターに関して、この試案を作った人々は、次のように言います。

総合生涯学習センター、市民学習センターを廃止(平成26年度)

・基礎自治体で実施すべき施策であるが、新たな基礎自治体ごとに保有するような施設ではない

・施設ありきで考えるのではなく、限られた財源のもとでの施策効果の最大化を図る・学習機会の提供は民間のカルチャーセンター等に任せ、地域の学習支援は本市他施設や民間施設を活用して実施するなど、効果的・効率的な事業執行を行う

・必要に応じて民間実施の講座等への助成を行い、地域の学習支援事業の実施にあたっては、民間施設の活用も図るなど、施設ありきの展開からソフト事業へと転換する

・指定管理者制度(利用料金制、~平成25年度)

・生涯学習の場を提供する専門施設を行政が持つ必要があるか?

そもそも、こういう考え方って、教育基本法(現行のもの)や社会教育法の趣旨に反するんではないですかね???

ちなみに、現行の教育基本法の「社会教育」の条文は、次のとおりです。

<現行教育基本法第12条「社会教育」>

個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。

2.国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。

いかがでしょうか? この教育基本法の趣旨に沿って言えば、社会教育の振興に積極的に努めなければならない責任が、大阪市の行政当局にはあるはず。また、その振興策のなかには、生涯学習センターなどの社会教育施設の設置ということも含まれているはずです。この試案を作った人々は、「他の振興策があるから」ということで民間委託や施設の廃止を考えているのかもしれませんが、それは今まで大阪市が社会教育・生涯学習の領域で踏ん張ってきたことを大幅に後退させる施策なのですから、「振興策」とはとても言えません。

というようなことから、やっぱり私は「グレート・リセット」は早急に「リセット」すべきだと思っています。もちろん、ほかの子どもや若者に関する施策、人権に関する施策などの大幅な後退は、とても容認することができません。



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