緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

第32回(2014年度)スペインギター音楽コンクールを聴く

2014-10-13 00:17:44 | ギター
台風が九州に上陸したようだが、関東地方の今日は曇り空であったものの暑くも寒くもなく、過ごしやすい1日であった。しかし明日は雨の予報である。
この三連休に、先日買っておいた板金ハンマーで車のヘコミを直したり、以前からの懸念事項であった加速時の笛吹音の正体を突き止めようと思っていたのだが、明日は仕事の予定もあり、次週へ持ち越しとなりそうだ。
しかし昨日は私にとっての音楽三大イベントの一つであるNコンの生演奏を聴きに行ったし、今日は2つ目の「スペインギター音楽コンクール」を聴きに行き、充実した休日となった。
今日はこの第32回(2014年度)スペインギター音楽コンクールを聴いた感想を書くことにした。



このスペインギター音楽コンクールを初めて聴いたのが第9回(1991年)であった。当時は場所ははっきり覚えていないが、官庁街の一角にある小さなホールで行われていた。
それ以来数回の抜けがあるが、殆ど毎年このコンクールを聴いてきた。
第2次予選と本選を同日で行うのがこのコンクールの恒例であるが、台東区のミレミアム・ホールに着いたのが午後2時ちょと前。第2次予選は半分以上終了していた。
今年の第2次予選の課題曲はフェルナンド・ソル作曲「練習曲op29-5」であった。
セゴビア編20のエチュード集の20番目の曲としても有名で、ギターをやる人であれば殆どの人が聴いたことのある曲でもある。
ちなみにこのop29-5はナルシソ・イエペスが編集した24の練習曲集の中にもあり、イエペスがセゴビアとは異なる独自の運指を付けている。ギターをやる人は殆どがセゴビア編のみを練習するが、イエペス版も研究することはとても役に立つ。イエペスの方が指に負担を掛けない合理的な運指を施している。
(下の写真はイエペス編の冒頭部)



今まで第2次予選の演奏を全て聴いたことは無いが、私が今日聴いた限りの演奏の印象としては、レベルが例年よりかなり低かったことである。これはここ数年の傾向なのかもしれない。昔のスペインギター音楽コンクールはプロを目指す方が参加するコンクールとして国内で行われるコンクールとしては東京国際ギターコンクールに次いでレベルの高いものであったため、第2次予選でもかなりハイレベルな演奏が殆どであった。
しかし今日聴いた演奏は正直言うと聴くに耐えないものもあった。何がと言うと、音が汚いのである。音が細い上に、キンキンとメタリックであり、ピシャンと跳ね上げるような音を平気で出している演奏もかなりあった。
スペインギター音楽コンクールほどのコンクールに出るのであれば、音には当然うるさいレベルにまでなっているはずであろうが、今日、また昨年の第2次予選を聴いて、このコンクールのレベルは下がったな、と感じずにはいられなかった。
がっかりしたのは第2次予選だけでなく本選もであった。
今年の本選は今まで長年聴いた中では最低のレベルであった。出場者の方には申し訳ないが本当にそう感じた。正直言うと1位、2位該当者なし、だと思う。このコンクールは出来いかんにかかわらず必ず順位を出す方針のようだが、譲歩しても1位該当なし、がいいところであろう。
本選課題曲はイサーク・アルベニス作曲「朱色の塔」であったが、多くの方がミスを連発、途中で止まったりと技巧面では歴代の本選出場者のレベルからして大きく下回っていたことは残念であった。
今日の審査で1位、2位を授与された方は技巧が安定もしくは際立っていた方である。審査員は何よりも技巧の安定度を重視したのではないか。だが1位、2位の方は音に魅力が無かった。音に魅力があり、会場全体に音を響き渡らせていたのは、第4位と第5位の方であった。第5位の方の音は今日の演奏者の中で最も聴き応えがあったが、ミスがとても多かった。第4位の方は自由曲(椿姫の主題による変奏曲)が素晴らしかったが、課題曲においてテンポが不自然に早くなったり遅くなったり落ち着かなかったり、間が空いたりしたことが大きな減点につながったと思う。
しかし第4位、第5位の方は音の出し方がしっかりとしており、楽器から最大限の音を引き出す技術、実力を備えていると感じた。その意味ではこれから技巧面と音楽面の修練を積み上げていけば、かなりの成長を期待できる素質を持っていると思う。
第2位の方は、テンポが軽快でテクニックも恐らく出場者の中ではトップクラスだと思うが、音が軽すぎでメタリック。
表現も単調で「朱色の塔」で短調から長調に転じたあとの情熱感も感じられなかった。
また「朱色の塔」の難所、あの長調に転ずる前のハイポジションのフレースであるが、完全に弾けている方はいなかったように思う。
今から30年くらい前、札幌のヤマハセンターでギターの展示即売会が催された時、ギタリストの渋谷環氏が、楽器を試奏する役目を仰せつかり、普通サイズのギター、確かマーチン・フリーソンだったかと記憶しているが、この朱色の塔の難所を難なく演奏していたのをふと思い出した。この時、客の一人からサイズの小さい「レオナ(当時日本の著名な楽器製作家が同じコンセプトで出来を競ったと言われるギター)」で同じ曲を弾いてみてくれと言われて、「え~出来るかしら?」と言いつつも完璧に弾き切ったことが思い出された。
思うに、速いテンポでミスしたり不明瞭で音が1音1音聴こえない演奏になるくらいなら、この難所を完璧に弾ける速度設定にしたほうがよっぽどいいのでは、思う。今日の本選の演奏はテンポが速すぎると感じるものがかなりあった。
この難所の部分の演奏で模範的だと思うのは、ナルシソ・イエペスの6弦時代の録音である。イエペスの超名演である。イエペスはこの部分を決して無理して弾いていない。
あまりこれ以上言うと嫌われてしまうのでこれくらいにしておきたい。趣味でやっている方や学生のコンクールでの演奏には悪いことは言わないようにしているが、このスペインギター音楽コンクールで本選に出場する方は殆どがプロを目指す方なので、少し辛口の感想を書かせてもらった。
このようにがっかりした本選であったが、1曲だけ素晴らしいと感じた演奏があった。
第4位の方が自由曲で弾いた「 椿姫の主題による変奏曲」。スペインギター音楽コンクールの本選自由曲でこれまで何度か聴いてきた曲であるが、聴き応えのある演奏は無かった。しかし今日聴いたこの曲の演奏は、「音楽を自分のものにした」説得力のある演奏で惹きこまれた。表現力に富んだ演奏で音が力強くかつホール全体に響き渡る演奏で、この曲の持つ魅力を最大限に引き出した演奏だと感じた。

さて順位であるが下記に示しておく。

1位:木村眞一朗さん(自由曲:ソナチネ第2楽章・第3楽章)
2位:伊藤亘希さん(自由曲:ソルの主題による変奏曲)
3位:佐々木巌さん(自由曲:グラン・ソロ)
4位:岡本和也さん(自由曲: 椿姫の主題による変奏曲)
5位:仲山涼太さん(自由曲:ファンダンギーリョ、ファンダンゴ)
6位:大沢美月さん(自由曲:マルボローの主題による変奏曲)

今日の順位は審査員によりかなり差があったのではないかと思われる。技巧を重視するのか、音の出方を重視するのか、音楽表現を重視するのか、審査員によって価値観が異なるので、同じ演奏者でも審査員によって最上位と最下位がつくことも多々ある。下記は昨年度の審査員別審査結果のメモである。バラツキが多いことが分かる。



このスペインギター音楽コンクールを過去に長年聴いてきた中で、最も後味の悪い、コンクール終了後の帰路に何とも無念で力が抜けてしまったものがある。
2002年のコンクールで、自由曲でアセンシオの「内なる印象」を弾いたある女性の方が、私は素晴らしい演奏で彼女が1位になることを信じて疑わなかったでのであるが、3位という結果に終わり、その瞬間の彼女の疑念に満ちた、落胆した、かわいそうな表情を今でもはっきりと憶えている。
同じ年の2か月後、彼女はスペインギター音楽コンクールよりはるかにレベルの高い東京国際ギターコンクールに出場し、日本人としては唯一本選まで進み、確か4位を受賞した。平日開催となった、課題曲が原博の名曲「ギターのための挽歌」だった時である。彼女はプロを目指している方であった。
スペインギター音楽コンクールで本選に残るは、まず殆どはプロを目指す人である。言ってみれば審査結果でその人の将来を左右してしまうのである。学生コンクールとは違う。
審査員の価値観で決まるのがコンクールの審査結果の全てであり、審査員の選択が最も重要な要素であることを痛感せざるを得ない。
個人的には、ギター以外のクラシックの他のジャンルの演奏家や、作曲家、評論家などを選定した方が、多角的な判定につながり、受賞者も聴衆も納得できるのではないかと思っている。

【追記】
本選自由曲の選択条件として、「スペイン人作曲家による作品」とあるが、毎年、毎年同じ曲ばかり、例えば、タレガ、ソル、アルベニス、グラナドス、ロドリーゴ、モンポウなどのよく知られた、親しみやすい曲ばかりが選ばれている。これには飽き飽きする。
何故現代曲が出てこないのか。これはいつも不思議に思う。今の若い方は現代音楽に抵抗があるのではないかと思うのだが、無調の現代音楽であってもスペイン人作曲家であれば選択はできると思う。
無調音楽に抵抗があれば、せめてルイス・ピポーの「歌と踊り第2番」、「エスタンシアスⅠ・Ⅱ」くらいの曲を選択してくれると面白味がある。


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4 コメント

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Unknown (Tommy)
2014-10-13 09:29:00
スペインギター音楽コンクールがあることは聞いておりましたが、具体的な内容についてのコメントは初めてでした。貴重な情報をありがとうございます。実は何年か前のことですが今年亡くなられた大沢一仁先生に自分の孫だと教えられた当時小学生の女の子が確か大沢美月さんだったような気がします。今だったら中学か高校生?
熱心にギターを弾いていたのを思い出しました。
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Unknown (緑陽)
2014-10-13 20:40:43
Tommyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
本選に出場した女性の方、故・大沢一仁さんのお孫さんだったのですね。名前が大沢だったので、本選を聴いていた時、一瞬、もしかして、と思いました。
初出場で本選までいったのだとすると凄いですね。まだ10代半ばのようだし、これからが楽しみです。
演奏を聴いているとギターがとても好きであることが伝わってきました。
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来年は・・・ (ミント)
2014-10-14 22:34:21
Unknownさま、速報ありがとうございます。
確かに社会人アマチュア参加者も意外といますね。
プロレベルのコンクールですから正確に!が前提でアマは練習時間が・・は言い訳ですしね!しかし、アマならなおさらリスクを恐れるわけにはいきません。私はこの副題のない有名な練習曲を家族で牧場や鍾乳洞の小旅行をテーマに演奏しました。冒頭はお父さんが”さー・いっ・こ・お~・ぜ~とスタート、そしてお母さんが歌い・・・・スケールでは虹、水晶玉の滴が出てきます。
その音が汚いと言われたのですから、さらなる鍛錬と研究が必要ですね。

ところで評論も結構ですが、あなた自身の曲のイメージはどうなんですか?巨匠はこうだ、プロはこう言ってたも結構ですが。朱色の3連符上昇も夕日にあたる川の反射光といった風にイメジーによってスピードも決まります。

最後に車メンテもいいですが、練習してコンクールのステージでその思いをぶつけましょう!ベテランの方もいましたよ!(それと若いから楽しみだ・・に”かわいくて”も正直に付け加たほうがいいぞ!)

今日も残業でまだコンクールの疲れが残ってるんだ。もう寝る。でも、入場料も含め拝聴ありがとう。



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Unknown (緑陽)
2014-10-14 23:40:05
ミントさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
文面からするとミントさんは先日のスペインギター音楽コンクールに出場なさっていたのですね。
私の書いた記事にかなりお気を悪くされたようですね。でも正直に感じた気持ちを書かせてもらいました。
ソルの練習曲を「家族で牧場や鍾乳洞の小旅行」をイメージしたとか。面白い解釈ですね。大変結構なことではないですか。曲によっては、ギターを弾くのが楽しくなりますね。
最後に一つ感じたことですが、演奏にはその人の普段の生き方が必ず現れます。聴き手がその演奏に感動するということは、その演奏者の人柄、考え方、生き様に感動するということでもあるのです。
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