緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

バリオス作曲「クリスマスの歌」を聴く

2018-12-08 22:09:19 | ギター
アグスティン・バリオスのギター曲がクラシックというジャンルに属するか、ということを考えると、すぐにクラシックで間違いないとは言えないような気がする。
だから人によってはクラシック音楽に分類しない方もいる。
クラシックギターの巨匠と言えば、アンドレス・セゴビアとナルシソ・イエペスとジュリアン・ブリームの3人であるが、この3人の中でバリオスの曲を録音したのはイエペスだけで、しかも「大聖堂」(但し第2、第3楽章のみ)1曲しかない。

しかしバリオスの曲は美しく庶民的で親しみやすい。
「前奏曲ハ短調」、「演奏会用練習曲イ長調」などは名曲だと思う。
これらの曲はシンプルであるが、左手の押さえがとても難しく、録音も少ない。

バリオスの曲のなかで比較的やさしく、親しみやすいのが「クリスマスの歌(Villancico de Navidad)」という曲だ。
この曲を初めて弾いたのが20代の後半の頃だったと記憶しているが、当時バリオスの全集と言えばヘスス・ベニーテスとリチャード・ストーバーにより編纂されたものしかなく、ベニーテス版が全音から出版されていることもあって安価であり、殆どの人がこのベニーテス版を利用していたのではないかと思われる。
私もベニーテス版全4巻を揃え、その中からいくつかの曲を手掛けたが、第2巻に出てくる「クリスマスの歌」は楽に弾けるし、メロディが親しみやすいので何度か繰り返し弾いていた。

30代初めの頃だったが、現代ギター誌の読者投稿覧にこの「クリスマスの歌」の一部のフレーズ、それは開放弦のみで奏され、2度現れる部分(16小節3拍目から24小節目5拍目の間)なのであるが、この部分は実は自然ハーモニックスで演奏されるのではないか、バリオスは元々クリマスに鳴らされる鐘の音をイメージしてこのフレーズを作ったのではないかと問題提起し、実際に譜面が提示されている記事を見たことがあった。



私はこの記事を読んですぐギターを取り出し、添付の譜面どおりにハーモニックスで弾いてみたが、なるほど実際に弾いてみると、開放弦のみの譜面とは異なる、8小節目3拍目から16小節目2拍目までに現れるメロディーどおりとなる。
これはもしかする本当にハーモニックス記号の欠落で、いままで誰も欠落に気付かずにいたかもしれない、と思ったが、このハーモニックスが終り次のフレーズの最初の音(ミ)を弾いた瞬間、何かつながりが変な感じがするな、とも感じた。
つまりハーモニックスのフレーズから次のフレーズへのつながりや流れが何となく違和感を感じさせたのである。

(ベニーテス版にフレットのポジション番号を書き込んで弾いた時の譜面)



その後この「クリスマスの歌」を弾くことから遠ざかったが、今日までの間に、このハーモニックスで弾くバージョンが、徐々に開放弦のみで弾くバージョンにとって代わり、今では開放弦の記譜は間違いでありハーモニックスで奏するのが通常であり、正しいと、とらえられるようになった感がある。
実際、近年出版されているこの曲の譜面はハーモニックス版によるものが殆どだそうだ。

今回あるきっかけでこの曲を久しぶりに聴く機会があり、あらためて開放弦版とハーモニックス版について、Youtubeで最も再生回数の多い演奏を聴き比べてみた。
開放弦版の印象は、この開放弦のフレーズは開放弦であるが故に素っ気ない、味気ない感じが若干しないでもなかったが、このフレーズの前後のつながりに違和感は感じられなかった。



次にハーモニックス版を聴いた印象だが、やはり25年前に実際に弾いて感じた違和感を感じた。
それはハモニックスの終わったあとすぐに続くフレーズへのつながりだったが、何か違うような気がするのだ(17と18小節目、21と22小節目)。





またこのハーモニックスのメロディは、前述のように8小節目3拍目から16小節目2拍目までに現れるメロディなのであるが、開放弦ではなくハーモニックスで弾くと、このメロディが4回も繰り返されることになり、曲全体のバランスからしてもこの部分が4度繰り返されることにも違和感を感じたのである。
このメロディーは8小節目3拍目から始まり、12小節目3拍目から16小節目2拍目までの間で和音の層がより厚くなり、音量も増すが、14小節目4拍目でクライマックスを迎え、そこからから16小節目2拍目まで下降する共に音量も徐々に下がっていく。



つまり、このメロディはこの2回の繰り返しだけで終わるのが自然の流れではないだろうかと思ったのである。
2回目の繰り返しの部分を弾いてみると、16小節目2拍目でこのフレースは完結し、ここから新たに別の展開が始まる。
その展開こそがあの開放弦で奏される部分とこの曲の最高音が続くフレーズ(18,19小節目と22、23小節目)との組み合わせの部分である。





この16から24小節目まで続くフレーズ、それは3番目のフレーズと言っていいと思うのだが、このフレーズの開放弦をハーモニックスで弾いてしまうと、2番目のフレーズ(すなわち8~15小節目)に出てくるメロディが再び再現されるので、何かおかしい感じがする。
自分は、8~15小節目と16~24小節目のフレーズは、違う展開を意図して作られたのではないかと感じたのである。
そうであれば、16~24小節目のフレーズに出てくる開放弦の部分は開放弦のそのままに弾くのが自然であり、本来、そのように意図してこの曲が作られたとも考えられるのである。

この8小節目3拍目から16小節目2拍目までのフレーズは、ニ短調に転調しニ長調に戻った、33~40小節目にも再現されるが、ここでもメロディが2回繰り返される。
その後冒頭のフレーズが再現され、最後は単音のハーモニックスの連続を経てニ長調の静かな和音で終結する。

この曲のバリオスのオリジナルの自筆譜には開放弦の部分にはハーモニックス記号が無かったのであろうが、記載漏れとみるか、元から存在しなかったのか、今ではその事実を確かめるすべは無く、この部分をどう弾くかは奏者の判断に任せられているのが現状だ。
断定的なことは言えないし、人により感じ方は異なるであろうが、私の感じ方としては開放弦の方が自然のように感じる。

【開放弦版の演奏】

Barrios: Villancico de Navidad


【ハモニックス版の演奏】

Christmas song - Villancico de Navidad by A. Barrios, performed by Tatyana Ryzhkova

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