晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

マイケル・ブレイク 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』

2011-03-27 | 海外作家 ハ
原作を読んで、そのあとに映像化された作品を観てガッカリした、
あるいは、先に映像を観て、そのあとに原作を読んで、原作のほう
が素晴らしいと思ったりすることもありますが、どちらも素晴らし
いと思える作品には滅多にお目にかかれないのです。
が、このマイケル・ブレイクの作品、ケビン・コスナーの監督、主演
で映画化された『ダンス・ウィズ・ウルブズ』は、どちらを先に
(原作→映画、映画→原作)しても、その両方に感嘆するでしょう。

1860年代のアメリカ、ミシシッピ川以西はまだ手つかずの自然が
残されていました。「自然」とは、そこで暮らす動物たち、そして
その動物たちと上手く共生していた人間の部族たち。
そしてここでいう「手つかず」とは、はるか東のさらに海の向こうから
来た、肌の白い、口髭をたくわえ、それまで見たことのない「馬」と
いう動物にまたがりやって来た「侵略者」のこと。

この時代、すでに「アメリカ合衆国」は誕生していて、その領土は
どんどんと西に拡がっていき、“インディアン”たちは、その住処を
奪われ、狭められていったのです。

そして、南北戦争が起こります。まだ見ぬ西部に魅力を感じたひとりの
青年、ダンバー中尉は、みずからセジウィック砦への配属を志願します。

しかし、その「勤務地」は、みすぼらしい小屋があるだけで、さらに
前任の兵はどこにも見当たりません。過酷な環境に逃げ出してしまった
のか、それとも、殺されてしまったのか。

いずれにしても、ダンバーにとってまずは荒れ果てた小屋の修理をはじ
めなければならず(すでにこの地まで付いて来た御者は帰ってしまった)
当面は日誌をつけて過ごします。
そんな辺境の暮らしの中で、ひとつの楽しみといえば、年老いた狼が
小屋の辺りをうろついて、はじめは警戒していたのですが、徐々に
ダンバーと打ち解けてきたのか、投げやったベーコンを食べたりする
ようになります。
その狼は前足の先が白く、ダンバーは「ツー・ソックス」と名付けます。

この砦から少し離れたところに、コマンチという部族の集落があり、
彼らは、肌の白い、口髭をたくわえた集団がかつていた砦の小屋に、
同じ種の男がひとりいることを発見。
一方、ダンバーもこの近くに部族がいることがわかり、彼らの集落の
位置を確かめます。

ある日、砦近くの泉に出向いたダンバーは、人がいるのを発見します。
それは女性で、なんと自分の体を切っていたのです。
女性の服装こそ、先住民族のそれだったのですが、顔や髪は、どうみて
も、ダンバーと同じ人種のもの、つまり白人だったのです。

じつはこの女性は、コマンチの部族が襲ったある白人の家で、生け捕りに
した女の子で、彼女はコマンチとして成長し、コマンチの男と結婚して
その夫が戦死して、悲しみのために自分で命を絶とうとしていたのです。

ダンバーは気を失った女性を馬に乗せて、集落へ連れていきます。
なんといっても驚いたのはコマンチの人たち。
馬に乗った口髭の男が、<拳を握り立つ>を抱えていたのです。しかし、
どうやら口髭の男に敵意のようなものは見えず、<拳を握り立つ>は
集落へ戻ることに。

コマンチでは、独特な名前がひとりひとりについていて、女性の名前は
もちろん、他にも<十頭の熊><蹴る鳥>などがいて、その人間の特徴を
名前として呼ぶのですが、ある夜にダンバー中尉が狼「ツー・ソックス」
と遊んでいたのを目撃したコマンチの男は、彼を<狼と踊る>と名付けます。

ここから、ダンバーとコマンチ族との交流がはじまります。はじめこそ、
我々の土地を奪い仲間を殺してきた白い肌の男が、なぜ我々に溶け込もう
としているのか、部族内でも意見が分かれますが、ダンバーには純粋な
好奇心、そして酋長は彼を何かに利用できれば、ということで、<拳を
握り立つ>を通訳にしようとするのですが、なにしろ小さい頃に連れて
こられたので、すでに英語は記憶の奥底に沈んでいて、思い出すのもやっと。

徐々にダンバーは打ち解けてゆき、そのうち砦よりも集落で過ごす時間が
長くなっていき、バッファロー狩りのときには白人に先を越されて、彼らの
問答無用の殺戮に怒りをおぼえるようになります。

インディアンに感化されていったというわけではなく、ダンバーに
とって、この生活こそ自分の求めていたものだと実感するのです。

人間は特別な存在などではなく、晴れや雨の日、草木や山川、動物たち
と同じくこの大地に存在する生き物として、自然を敬い、自然に恐怖します。

とても美しい作品です。
コメント
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