晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ジョン・アーヴィング 『サーカスの息子』

2010-12-09 | 海外作家 ア
アーヴィングの作品を読むのはこれで2作目、ちなみに1作目は
「ホテル・ニューハンプシャー」でしたが、なんというか、きちんと
説明できませんが、作品の中に描かれている世界に一歩足を踏み
いれたら吸い込まれ、その世界観を体に浴び、でもその作品を読
んでいる“自分”を俯瞰で見ている、なんだか意味不明な解釈で
すけど、つまり読書というよりは「不思議な体験」をした、そんな
感覚になったのでした。

『サーカスの息子』の舞台はインドのボンベイ。現在では公式名称が
英語読みから現地語の「ムンバイ」になった、インド西部、アラブ海
に面する、インド最大都市。
カナダのトロント在住の医師、ファルーク・ダルワラは、ここムンバイ
で生まれ、その後オーストリアで医学を学び、オーストリア人女性と
結婚し、子どもが生まれて家族はトロントへ移住。
ファルークは、たびたびインドへ「帰郷」します。その大義は、軟骨
発育不全が原因の小人症の遺伝子を研究するためで、彼がよく知る
サーカス団員の小人ヴィノドを介し、遺伝子サンプルを集めようと
します。

しかしヴィノドは血液採取を拒否、そしてサーカスで事故に遭いサーカス
を退団、その後、小人でも運転できる「方法」を編み出し、「ダー警部」
シリーズに主演する映画スター、ジョン・Dの運転手をやることに。
このジョン・Dとは、ファルークにとって弟とも息子ともいえる存在で、
産まれてまもなく母親に捨てられ、ファルークの両親のもとで育てられ
ます。
そして、人気シリーズ映画「ダー警部」の脚本を担当しているのは、なんと
ファルークなのです。

この映画は、インドの複雑に入り組んだ宗教問題を扱ったりするので、
なにかと物議をかもします。最近では、映画を真似た殺人事件が起こったり
して、そしてとうとう、ボンベイの会員制高級クラブ「ダックワース・クラブ」
内で殺人事件が発生、被害者の口の中に、ダー脅迫のメッセージが・・・

ファルークは、ある出来事を思い出します。それは20年前、突然キリスト教
に改宗した衝撃的な(本人にとって)身体の“異変”の起こった前後、ある
殺人事件に出くわすのですが、その20年前の事件と、クラブ内で起きた
事件には、ある繋がった“何か”があると考えたファルークに・・・

さらにファルークには悩みが。じつはジョン・Dには双子のきょうだいが
いるのです。彼らの母親は、インドで双子を出産、なんと「片方」だけを
連れてアメリカへ戻ってしまったのです。
その片方が、なんとボンベイに来るというのですが、さて、ジョン・Dに
どうやって話せばいいものか・・・

物語上の現在進行形からいきなり過去の回想へ話が飛び、そしてまた戻り、と
目まぐるしく動きまわります。その中で小出しで語られる、登場人物の出自、
過去、人生を変える出来事。

そして、インドという国の、あまりに独特な世界を、時にリアルに、時に
幻想的に描きます。そこにあるのは「ただ、インド」なのです。

インドに在住しているわけではないファルーク、トロントでも、帰化したとは
いえ、何度も理不尽な差別にあいます。自分の居場所はどこか、帰るべき場所
とはどこか、アイデンティティに苦悩。
歩み続けていた足を止め、ふと「なぜ」と思ったときに、人は「異邦人」を
感じる、とはアルベール・カミュの言ですが、ファルークはまさにどこへ行こうと
異邦人を感じます。彼の帰るべき場所とは?そこは心の中に常にあっても、たとえ
視界に入っていても、本人が気付いていないだけなのかもしれません。

コメント
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