晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

深町秋生 『果てしなき渇き』

2010-12-13 | 日本人作家 は
この作品は第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、
内容的にはかなり重苦しく、ハードボイルド、ノワールといった
カテゴリーで、その中で、スピード感こそあまり味わえなかった
ものの、それでも構成はしっかりと考えられていて、話の「隙」
は見られず、完成度の高いミステリーだと思います。

元警官で現在は警備員の藤島。雨の夜、ある一軒のコンビニエンス
ストアからの警報で、藤島は直行。中に入ってみると、そこには
三人の死体が・・・

できれば顔をあわせたくない元同僚、つまり警察に、この事件の
発見者として訊き込みされます。藤島はぶっきらぼうに対応。
しかし、藤島が警察を辞めた“事情”を知るかつての後輩が場を
なんとか穏便に済まします。

藤島が警察を退職した“事情”とは、連日捜査捜査で家を放ったらかし
にしていた「ツケ」か、妻は男と不倫、藤島はその男に暴行、そして
免職ではなく“依願退職”となったのでした。

そんな中、別れた妻から電話が。娘の加奈子が帰ってこないというのです。
その理由を聞いても元妻は、とにかく家に来て、の一点張り。
元妻と娘の住むマンションへ行き、娘の部屋で手がかりを探す
藤島の目に入ったものは、高校生の少女が持つには不相応な量の
麻薬が・・・

娘の友人を見つけ、居場所を聞こうにも、どうにも何かを隠している
様子で、さらに、加奈子に対して嫌悪や憎しみまでも感じられます。
どうにかこうにか訊き出せたのは、ある不良グループと娘の関係。
そして、写真の中で加奈子といっしょに並んで写っていたある男。
この男は、中学時代に自殺していたのでした。
写真に写る加奈子の屈託の無い笑顔から推察するに、この男は恋人だった
のではないか・・・

美人で頭も良く、性格も明るい加奈子が、そんな不良グループと付き合い
があったと知り愕然とする藤島。それもこれも元妻の育て方が間違って
いたと詰ります。

コンビニ殺人事件から娘の関係しているとされる不良グループの繋がり
という話とクロスして、娘の中学時代の話が描かれます。
クラスで壮絶ないじめに遭っている少年を、加奈子は助け出します。
ある日を境に、ぴたりと少年に対する悪口や暴力が「消えた」ばかりか、
その少年に対していじめを行っていた中心的な人物はあからさまに少年
の「背後の何か」を怖がります。
加奈子に密かな想いを寄せていた少年は、加奈子に誘われるままに、ある
「グループ」の集まりに誘われますが・・・

警察、ヤクザ、少年不良グループ、これらが複雑に絡まってのスピード感
を期待したのですが、正直いって、スローペース。
だからといって、中身の無いまま突っ走られても困ります。その点では
それぞれの背景や心情などをしっかりと描いていたからこそのスローである
と解釈すればいいのですが、ノワールつまり暗黒的な物語は一気に読み上げ
てこその(そのあたりのスピード感は馳星周の描写が秀逸)魅力というか
醍醐味なのですけど、つまり、暗黒に陥らざるをえないシチュエーション
かどうかの話の持っていき方がちょっと弱いかな、と思うのです。
その理由付けが決まれば、あとは急流に乗るだけで「ああ怖かった~」と
なるわけです。この「怖かった」と「面白かった」が表裏一体。

長時間、ジェットコースターに乗っていたりお化け屋敷に入っていたりなんて
したくないですものね。


コメント
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