晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『楽園』

2010-12-03 | 日本人作家 ま
この作品は、宮部みゆき著「模倣犯」に登場したフリーライター、
前畑滋子が主人公で、続編というよりは、スピンオフ的な内容と
なっています。
「模倣犯」を読まなければ話がつかめない、というわけではなく、
かといって「まだ『模倣犯』読んでないんですけど」という人の
ためにも、あまりに具体的なネタバレもせず、ここらへんの按配
は丁寧というか親切を感じ入ることができます。

9年前に自身が関わった猟奇大量殺人事件、心の傷は深く、しば
らくはライターという仕事からも遠ざかっていたのですが、徐々に
活動を再開。
滋子は小さな編集社にお世話になっていたのですが、そこに、ある
中年の女性からの電話が。ぜひとも、滋子に話を聞いてほしい、と
のこと。

その電話の相手と、とりあえず会うことに。やって来たのは、萩谷
敏子という女性で、12歳の若さで交通事故死した息子が、未来の
出来事をノートに書いていた、というのです。

詳しく話を聞いてみると、親子の住む家からだいぶ離れた(同じ都内)
ところで火事があり、その家主が、じつは16年前に失踪した娘が
床下に埋められていると自供した、という事件があり、そのニュース
を見ていた敏子は、息子の等が描いた絵の中に、その燃えた家と、
家の下に灰色に塗られた女性が書かれていたのを思い出します。
その論拠に、家にはコウモリの形をした風見鶏が描かれていたのです。
そして、その家にも、コウモリの風見鶏が・・・
しかも、この火災が起きる前に、等は事故死していたので、まさか
床下に殺された娘が埋められていたことを知っているはずがありません。

しかし、どうにも「胡散臭い」というか、超能力の類の「眉唾もの」
という疑念はあったのですが、しかし、あの9年前の事件を想起させる
他の絵を滋子は見てしまいます。

それは、若い女性をさらっては殺して、庭に埋めていたという陰惨極まる
事件の舞台となった山荘、それとしか見えない絵で、しかも、一般には
流れていない、滋子が特別に捜査にあたっていた刑事に聞いた情報――、
埋められていた死体の数と同数のシャンパンの瓶も埋められていて、恐らく
犯人は記念に祝杯でもあげていたのだろうという推測――、しかしこれは
警察関係者と犯人以外では滋子しか知らないはずなのです。

ところが、その絵には、山荘の周りに女性とみられる手が地面から何本も
突き出していて、しかもその横に、瓶のようなものも描かれていて・・・

滋子は、いずれかは、あの9年前の忌まわしい事件と向き合わなければ
ならないと心では分かっていても、その踏ん切りが今までつかなかったの
ですが、敏子の、息子の等はなぜこんな絵を書くことができたのか調べて
ほしいという依頼を受けることに。
まずは、家が全焼するまで娘を殺して埋めたことを黙っていた両親、しかも
16年間も。この「秘密」を等はなぜ知り得たのか、を調べることに。

はたして、等は、娘が殺されて埋められていたという事実を誰かから聞いた
のか、それとも誰かの「心を読んで」描いたのか、そして、山荘に埋められ
ていたシャンパンの瓶の謎は・・・
16年前に、非行に走った娘に手をかけてしまい、失踪したということにして
家の床下に埋めた土井崎夫妻と殺された娘の妹の周辺、それから生前の等を
知る方面を話を聞き進んでゆくのですが・・・

とても読み応えのある作品です。重苦しくもなく、「超能力」が出てくるので
ファンタジー、という非現実的事象をほんとうに上手に現実(日常)に織り
込ませます。

そして、救いようのない中にも光明を見出せるラスト。宮部作品の醍醐味。

コメント
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