晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

馳 星周 『夜光虫』

2009-02-06 | 日本人作家 は
前に『不夜城』を読んで、新宿に行くのがちょっぴり怖くなってしまった
というビビリな経験を持った、という人は私含めて少なからずいるとは
思うのですが、今回の『夜光虫』を読み、台湾という所が怖いんだなあ、
と思ってしまったのです。

実際にどこまでがリアルでどこからがフィクションかは小説の中で判断
するしかないないのですが、それにしても、その場所にあたかも自分が
立っているのではないか、またはその場所の臭いまでもが感じられるような
心境になるのです。

なんというか、著者の文体は「起きた。煙草に火をつけた。新聞を広げた。」
といったような、音楽でいうならスタッカートや休符が多い楽曲のような
印象を受けます。その空白部分を、文中の重量感漂う雰囲気がそれを埋めて、
一見楽譜を見たらスカスカのように見えて、聴いてみるとそれが違和感なく
感じられるような、そんなふうに思うのです。

話は、日本でかつてはスターだったプロ野球選手が、野球ができる場所を求めて
台湾へと渡り、そこで八百長が公然と行われている中でそれに加担し、「黒道」
と呼ばれる台湾マフィアと密になり、事件に巻き込まれ、本人も殺人を犯し・・・

ひとたび殺人をしてしまうと、それを暴かれたくない(逮捕されたくない)
ばかりに、第2第3の殺人をやってしまう、というのが推理小説によくある
のパターンですが、たまに、その殺人を重ねていく過程で、どこからともなく
殺人という行為自体が快楽的に感じてきてしまうというのもあります。

あいにく私は人を殺した経験が無いので(当たり前だよ)、そういった心境は
経験したことはないし、したくもありませんが、『夜光虫』に出てくる野球選手
が場渡り的に犯罪を重ねていくのですが、もうひとりの自分が命令するがごとく
「こいつを殺せ、こいつが邪魔だ」という声が頭の中に響いて聞こえてくる
という、まあ、ちょっとしたビョーキ状態になるのですが、それが、理性や
倫理ではいけないことと分かっていても、心の奥深くでは、それを望む自分が
いる。性悪説ではないですが、ここに血塗られた家族の業みたいなものが
絡んできて、もうタイヘン。

ほんと、読み終わったらぐったりします。あんまり心地好い疲労ではないけど。


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東野圭吾 『白夜行』

2009-02-04 | 日本人作家 は
今さら東野圭吾の書評なんて、どこでも誰でもやっていることですし、
それこそ、本好きにとっては耳にタコならぬ「目にタコ」ができるくらいでしょう。

しかし、恥ずかしながら、不肖ロビタは、初めて読んだのであります。
他の作品はまだ読んでいないので、世にいう「東野圭吾ワールド」なるものは、
じゅうぶん堪能していないのですが、それでも、うーん、どうだろう、だれの作品
以来かははっきりと覚えていませんが、だんだんと読み進んで、残りページが少なく
なっていくのを本を持つ左手に感じると、ああ、終わらないでくれ、もっとこの文中
の世界に浸っていたいのに、といったような気持ちにさせてくれるのですよ。

ミステリーとジャンル付けされる作品では、大抵というかほぼすべての作品で
人が殺されます。犯人を追う事件解明をする側(刑事だったり探偵だったり)
に気持ちを肩入れして、見事解決、犯人逮捕で爽快感を味わう小説もありますが、
ほんとうの秀逸なミステリーというのは、犯人側にたいし、同情というと言葉が
陳腐すぎますが、ある種、捕まらないでくれ、そして慈悲をむけたくなる気持ち
になることがあります。犯人の背景、憐憫、世の不条理などなど、それらがきちんと
描けていてこそのことなのですが、殺人を肯定するわけではありませんけど、
手前で、勝手ながら、情状酌量してしまうのです。森村誠一著『人間の証明』
の母のように。
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高村 薫 『照柿』

2009-02-01 | 日本人作家 た
著者の作品は、『マークスの山』『レディ・ジョーカー』と読んだことがあって、
数ページ読んでいくと、うわ、こりゃヘビーそうな内容だぞ、と思うのですが、
読み進めていくうちにハマってしまい、序盤の想像通り、重苦しい部分も多いの
ですが、作品中に意識を溶け込ませるとでもいいましょうか、物語に引き込まれ
ていくのです、ぐいぐいと。

心の奥に凶暴性を持つ男、という男がいるのですが、その男の背景がなんとも
壮絶というか、悲惨というか。
だからって、殺人を犯す必然性は無いのですが、かつては手のつけられない
ほどの悪童だった男が、その後普通に就職し工場で働き、教師の女性と結婚し、
公団住宅に住み、男の子を授かり、しかし、衝動とはいえない他人にむけられ
た狂気を抱くまでのプロセスがしっかりと描けています。

この男の幼馴染みで、警視庁捜査一課の刑事。実直に職務をまっとうしているか
といえばそうではなく、だんだんとまずい立場に。
別れた元妻の兄(つまり元義兄)は、検事。妻と別れても交流はもち続けている。
あれ、この構図、どこかで読んだことがあるな、違う作家?と思い、本棚にある
本の中からそれらしいのを推量して、判明したのが、『レディ・ジョーカー』
でした。この刑事は『レディ・ジョーカー』にも出てました。

ズシンとなにか重たいものが心に響く、重厚感あふれる、そんな作品でした。
ただ、敢えて苦言をいうならば、はじめの部分の、工場の工程描写。
後でそれなりに重要になってくるので、ここはきちんと説明されているな、
というのは分かるのですが、ちょっと読み苦しかったかな。
コメント (1)
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