晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

宮部みゆき 『名もなき毒』

2012-11-09 | 日本人作家 ま
この作品は、「誰か」の続編にあたり、登場人物はほぼいっしょ。
ざっと「誰か」のあらすじを書きますと、日本有数の大企業、「今多
コンツェルン」会長の娘と結婚した杉村三郎が主人公で、杉村は、
娘婿になるにあたって、出版社をやめて今多コンツェルンに入社する
こと、それと、”出世欲を見せない”という条件付き。

というのも、娘、菜穂子は隠し子で、母が亡くなったあとに引き取り、
家族とは仲良くやっていて、何不自由なく暮らしていて、杉村と結婚
してからも、それこそ杉村が働かなくても一生暮らしていけるだけの
財産を所有しています。
そこで、菜穂子と結婚することで今多コンツェルンのビジネスに割り込
んでこなさそうな、いわば”害のなさそうな”男こそが杉村、というわけ。

杉村は、社内誌「あおぞら」の編集という仕事をしています。前作「誰か」
では、会長の専属運転手が事故死して、それの真相を探る杉村と、運転手
のふたりの娘が、父の本を自費出版をしようとする手助けをしてゆく中で
思わぬ事実が・・・という話。

さて、『名もなき毒』では、無差別で毒入り混入の連続殺人事件が起こり、
一方「あおぞら」編集部では、新しく入ったアルバイトの原田という女性に
手を焼いています。
原田は、前職では編集をしていたと履歴書に「嘘」を書いてアルバイト採用
されて、あまりに仕事ができず、それを周りの人の教え方が下手だといい、
あげく、無断欠勤。
とうとう編集長(杉村の上司)は、彼女をクビにしよう、ということに。

ところがこれに腹を立てた原田は、なんと会長あてに、嘘を並べた手紙を
送りつけます。

杉村は、原田が前に勤めていた会社を訪ねてみます。そこでも彼女はトラブル
を起こしていて、そこの社長をストーカー呼ばわりして、家庭崩壊に追い込ん
だのです。
そこで杉村は、社長から原田撃退のときに役立ってくれた”探偵の真似事を
している男”という人物を紹介してもらいます。

探偵のようなことをしている北見という男は元警官で、家を訪ねた杉村ですが、
そこには先客が。
原田について相談を終えて帰ろうとすると、さっきの先客の女子高生が外に
いて、いきなり倒れるのです。

その女子高生は栄養失調で、後日、「娘が倒れたときに救急車を呼んでくれた」
御礼をしたいと、母親から電話が。
母娘と会うことになった杉村ですが、そこで、母親は現在ニュースで騒がれてる
連続毒殺事件の被害者遺族だったのです・・・

どんどんエスカレートする原田の嫌がらせ。そして、ひょんなことから連続毒殺
事件に巻き込まれていく杉村。

社内誌「あおぞら」の企画で、ある社員にインタビューした杉村は、家族が「シック
ハウス」で悩んでいると聞き、折しも杉村家は新居を建てていて、妻の菜穂子は
シックハウスについて調べに調べまくっていたのです。

シックハウスという「見えない毒」、あまりに理不尽な理由で他人を「毒殺」する犯人、
そして、「毒」に犯されたとしか言い様のない原田という女性。

ここまで「毒」が蔓延してしまった現代社会を、複数のテーマを織り交ぜ「混沌」を
演出しつつも複雑になりすぎず、バシっと描ききるのは凄いなあ、と感嘆しきり。

インターネット上で安易に他人の人格否定をしておいて、「それはネット上だけの話で、
実生活ではそんなこと言わない」と悪びれない人はさぞかし「猛毒」に犯されているのでしょう。

コメント (2)
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