晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

夏目漱石 『彼岸過迄』

2010-02-09 | 日本人作家 な
『彼岸過迄』というタイトルは、物語とは関係がなく、大病を患い、
朝日新聞社を辞し、さらに身内の不幸と、辛い状況にあったときに
元日から書き始めて、彼岸のあたりまでに書き上げる予定、これが
タイトルになったのですが、意気込みとして、個々の短編を相合せて
長編に構成されるように仕組む、というもの。

敬太郎という、これといって職もなくブラブラしているような男
がいて、同じ下宿先の森本という男に興味を持ちます。
彼の話す過去はどうも眉唾ものというか、実際、今は新橋の駅で
働いているという情報もちょっと疑わしいくらい。
そんな森本が、家賃滞納のまま中国に渡ってしまうのです。
そして、彼の残していった、持ち手が蛇の奇妙なステッキを敬太郎
に差し上げるという手紙が届くのでした。

ここから須永という敬太郎の友人の話に移ります。全体的にこの
物語は、須永の周りを描いており、それを敬太郎の視点を介して
語られてゆきます。
敬太郎は須永に、職の斡旋をしてもらおうと須永の叔父にあたる
田口という男に頼みます。
ちょくちょく須永の家に行く敬太郎は、ある日家の前に見たことの
ない女性がいるのを見かけます。その女性は須永の家に入ってゆき、
気まずくなった敬太郎は道をうろうろしていると、二階の窓から
須永に声をかけられます。
家に上がった敬太郎ですが、どうにも先程の女性を聞くことはでき
ません。

さて、田口に会った敬太郎は、なんでもすると請け負い、田口に
探偵のまねごとを頼まれます。
それは、市電のある駅で降りる男を見張って、その行動を報告せよ
よというもの。
現場で男の来るのを見張る敬太郎の前に、田口から聞いていた特徴
の男が市電から降りてきますが、それまで敬太郎と同じく駅の前に
しばらくいた女と待ち合わせていた様子。
一部始終を田口に報告し、この男のもとへ敬太郎を向かわせます。
じつはこの男とは田口と須永の親戚で、松本といい、資産があり
働いていない、本人曰く「高等遊民」という存在。
さらに同伴していた女は田口の娘で、いつか須永の家に入っていった
女性だったのです。

須永と田口の娘である千代子は、お互い惹かれているも、須永の
ほうは彼女をどこか恐れていて、煮え切らない態度に千代子は
苛立つも、想いは断ち切れないまま。
須永の母は千代子と息子との結婚を切望しており、しかし須永は
松本に影響されてか、結婚にも人生にも前向きではありません。

このふたりの関係はどうなったか、さらに須永や田口の家庭の事情
などが敬太郎の聞いた話で描かれてゆきます。
都会のいち青年の苦悩を描くという形式ではなく、敬太郎という
ワンクッションを置くことによって、深刻さは感じられません。
本来、物語の主軸となる話を断片として扱うあたりが「吾輩は猫である」
に通ずるものがあります。
序盤の森本の話ですが、最終的には人物そのものはあまり関係がなく
ステッキが「活躍」します。

ちなみに2月9日は漱石の誕生日だそうです。

コメント
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