晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

角田光代 『空中庭園』

2010-02-16 | 日本人作家 か
『空中庭園』は、著者の直木賞受賞作「対岸の彼女」より前に出された
作品で、帯にはその原点となったとあるのですが、微妙な均衡を保ち
つつもなんとか繋ぎとめられている家族の描き方は、村山由佳の「星々
の舟」に近いのではないでしょうか。

東京から近くもなく遠くもない都市にあるマンションを「ダンチ」と呼ぶ
女子高生マナ。両親は若くして結婚、弟とダンチで4人暮らし。
そんなマナは、両親から、地元にあるダサい名前のラブホテルで自分が
仕込まれたと知ります。
そして彼氏とその自分のルーツともいえるラブホテルへ向かいます。

そんな話からはじまり、弟の話、母の話、父の話、父の愛人の話、さらに
母方の祖母の話と短編で構成されて、いちおうこの家族とその関係者が
主役となるので、それぞれの編はリンクしているのですが、内に秘めた
お互い言えないことが、薄皮を一枚ずつ剥がしていくように分かっていく
のが覗き見趣味でいえば面白く、感情移入すれば怖くもあります。

家族間では、いっさい秘密を持たないというルールがあるのですが、
逆にそのルールを隠れ蓑にして、「これを言っちゃおしまいよ」という
秘密をみんな抱えているのです。

どうしても看過できないのですが、この家族の弟は中学生で、クラスで無視
されています。このような中学生を軸にした小説には、必ずといっていいほど
いじめ問題が取り上げられます。
もっとも、現実世界ではあって当然で、むしろ描かないほうが不自然だと
する考えもあるのでしょうが、これは中学時代独特の悩みというわけではなく、
結局は大人の世界をそのままミニチュアにしただけです。
石田衣良の「フォーティーン」という、それこそ14歳の男子中学生の4人
が主役(4人の10代でフォー・ティーン)の素晴らしい作品があるのですが、
これにはいじめのシーンは描かれておりません。
もっともこの作品は東京の下町版「スタンド・バイ・ミー」的な作品ですので
学校でのリアルな日常はあまり登場しないのですが、中学生を描く場合の
アプローチの仕方が、そこには大人にはない世界があるんだ、という視点
なのです。

そう考えると、弟の章が、もっとほかの悩みを持つテーマであったらなあと、
ちょっと残念。

家族のそれぞれが、もし自分が違う人生を送っていたならばと夢想するの
ですが、切ない。鏡やガラスに映った自分を眺めて、異邦人を感じます。

コメント
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