晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

津原泰水 『ブラバン』

2009-11-12 | 日本人作家 た
テレビのコマーシャルなどで、よく80’年代の洋楽がBGM
として使われたりするのが多いのですが、たとえば自動車
といった高額商品のメイン購買層が、この年代に青春時代
を過ごし、食いつきがいいというか、少なくとも「若いころに
よく聴いてた曲のCM」という印象を持ってもらい、有利な展
開となる、と。

『ブラバン』という小説も、舞台こそ広島県で共通意識はあり
ませんが、80’年代の洋楽ファンには「あー、そうそう」みたい
な気持ちになれるし、さらにクラシック音楽ファンにも(なにせ
タイトルからして吹奏楽部の話)楽器のあれこれの話や、有名
な楽曲についての話などが出てきて楽しめます。

物語は、1980年に広島県の高校に入学した他片等という
少年の一人称視点で進み、そしてそれから25年後に、当時
の吹奏楽部のメンバーのひとりの結婚式に余興として、吹奏
楽部の再結成を画策するといった話。
単純に2部構成となっているわけではなく、25年後の大人に
なった「僕」の近況(流行らない飲み屋の店長)から突然タイム
スリップ的に高校時代の話に飛び、ちょっとはじめのうちこそ
混同しますが、すぐに慣れて、音楽用語を使うならば「クロス
フェイド」(前の音をしだいに小さくしていく時に重なるように次の
音をしだいに大きくする)のような構成。

高校の吹奏楽部のメンバーは、まるで個性のデパートのような
さまざまな性格の生徒が集まっていて、ひとつひとつのエピソ
ードが面白く、全部紹介したいところですがそうもいかないので、
とにかくみんな面白い。
コンクールや体育祭での楽曲選考にあたり、顧問と生徒との意
見のぶつかり合いがあったり、楽器パート別に思惑があったり、
ちょっとした「ウラ話」的な要素が、吹奏楽部をよく知らない読者
にとっては興味のそそるところ。

こういった青春群像ものは、あの時代は良かった、あの頃に戻り
たい、といった懐古趣味に走りがちですが、そこは作者が、主人
公の「僕」をフィルターにして歯止めをかけているなあ、と思う文章
だったり台詞がちらほらあって、バランスの取れた、そして特筆す
べきは、専門用語の解説がとても親切に文中に挿し込まれていて、
丁寧な仕上がりとなっております。
コメント
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