晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

薬丸 岳 『天使のナイフ』

2009-07-03 | 日本人作家 や
この作品の主テーマとなっている「少年法」のそもそもの成り立ちは、
日本が戦争に負けて、国じゅうに親を失った戦災孤児があふれかえり
生きる術として盗みや脅し、場合によっては殺人といった罪を犯すこの
子どもたちは、大人の身勝手により引き起こした戦争によって生まれた
存在であって、悪いのは大人であって子供ではない、だから罪を問うの
はよそう、という崇高な理念があったのですが、近年の犯罪の若年化
、しかもその理由が「遊ぶ金欲しさ」など、およそ少年法の保護下に置く
べき不幸な存在ではない動機が多いのです。
未熟がゆえの犯罪ならば少年法の適用は分かるのですが、性犯罪や
詐欺といった類の犯罪、さらには少年法の存在を悪用する場合は子ど
もの感性ではなく、それはもう大人の思考。

一概に子どもだから法で守る、というのは当初の崇高な理念からかけ
離れているような気がするのです。年齢ではなく、罪の種類を問うべき
なのでは。

「天使のナイフ」は、そんな少年犯罪と贖罪を扱った作品で、江戸川乱歩
賞受賞作品。
妻を中学生3人組に殺されて、その罪の軽さに理不尽さと怒りを感じつつ
も男は残された一人娘を育て、カフェ店長として働く毎日。
ある日、警察が男のもとへやって来ます。男の勤めるカフェの近くの公園
で少年が殺されているのが発見され、その少年は「少年B」、妻を殺した
当時中学生3人の1人だったのです。
少年Bを知る少女から話を聞くと、Bは心の底から反省し、罪を償いたい
と周囲に語っており、さらに共犯の2人と連絡を取りたがっていた様子。
情報を頼りに主犯とされていた少年Aを探しにいくも会えず、その帰りに
駅のホームで男の隣にいた人がホームに転落。その転落した人は少年C。

まるで男が復讐しているような、次々と身の周りに起こる偶然。そして
少年Aから連絡が来るのです。待ち合わせ場所を指定され、「あんたに
面白いものを見せる」と言います。Aに会おうとするのですが、娘が急病
になり、病院へ向かいます。そして翌日、Aが殺されたというニュースが・・・

妻、妻と生前知り合いだった娘の通う保育園の保育士、妻が子供のころ
に住んでいた家の近所に住む老人、この人たちの過去が複雑にもつれた
糸のように絡み合い、そしてようやくほぐれて見えた一筋の糸の先には、
ええ、この人が犯人だったのか、と驚きと同時になんとも複雑な気持ちに
させられました。

読んでいて、どうしても頭や胸の片隅にへばりついていたモヤモヤのような
ものがあったのですが、それは主人公が進む道の先には事件解決の糸口
が転がっていて、なんだか主人公がオリエンテーリングをやっているくらい
スムーズに進行していってるなあ、という思いがあったのですが、本の後ろ
にあった乱歩賞選考委員の寸評の中に「主人公のご都合主義的なところが
あった」とあり、それこそが読んでいて感じたモヤモヤだと膝を叩いて納得。
さすが乃南アサさん、敬服。
コメント
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