Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

消費者行動の知識

2010-09-21 18:03:20 | Weblog
消費者行動研究に関する非常にコンパクトな教科書が発売された。著者は,わが国での研究をリードしてきた中核的な研究者であるだけに,本書にはいくつかの特徴がある。その1つで,特にマーケティング・サイエンスよりの人間にとって興味深いのは,消費行動と購買行動を区別することに加え,前者における「消費様式の選択メカニズム」に1つの章を当てていることだ。具体的にいうと,それは「ライフサイクル」「ライフスタイル」「ライフコース」の選択である。

消費者行動の知識 (日経文庫)
青木 幸弘
日本経済新聞出版社


よく知られているように,近年著者は「ライフコース」論の消費者行動研究への導入を推進してきた。購買自体は一瞬の出来事であっても,それは消費という持続的プロセスの一部でしかないし,それはさらに,生活や人生というより長期で幅広いプロセスの1コマでしかない。このように消費者行動研究の裾野が広がっている一方で,マーケティング・サイエンスの選択モデルはいまだに購買の瞬間に注目し続けている。その谷間に架橋することは可能だろうか。

選択の個人差を説明するのにライフスタイルやライフコースといった要因を取り込むことは,データさえあればすぐにでもできる。むしろ,ライフスタイルやライフコースの「選択」をどうモデル化するかが難しい。誰も人生の選択がもたらす結果を事前に見通せない。また,一回の選択で決まるわけでもない。あるいは,そもそも選択しているのかどうかさえ分からない ・・・と,ぼくの思考は発散していくが,もちろん本書はそんな妄想のために書かれたわけではない。

このところ,マーケティングや消費者行動の新しい教科書が次々と出版されている。本書の著者も含め,どなたも非常に忙しい身でありながら,なぜこのような包括的で中身の詰まった本を執筆できるのかと不思議に思う。それを一言で説明するキーワードは「生産性」ということになる。生産性が違うから,投入量に対する産出量が違うのだ・・・ 同義反復のような気がするが,しかし,それ以上差異の原因を追求すると厳しい現実を直視することになる。だから,やめておこう。

最後になりますが,献本御礼申し上げます。

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