Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

WCSS at Kassel Univ. 初日

2010-09-07 17:14:33 | Weblog
ドイツの中央部に位置するカッセルで開かれているWCSS(World Congress on Social Simulation)に参加した。初日の午前中は基調講演,Mauser: Humans and Nature: Exploring the future of a close relationship through simulationを聴く。ドナウ川周辺の人口,農業,環境などを包括的にモデル化する大規模な研究プロジェクトの話。世界モデルまでの道は長いが,人間の活動との相互作用を組み込んだ環境モデルが追求されている。

昼食は,会場となったカッセル大学構内のカファテリアに行く。5ユーロ程度で主食1品と副菜2皿を選ぶことができる。日本の感覚からすれば必ずしも安くないが,ステーキなども選択できるし,ジュースやソーダは自由に選べる。同席したイタリア人に味を聞くと,「まあまあ」と日本語で答えた。イタリア人から見たドイツ料理については,最大の賛辞かもしれない。そうこうしているうちに,午後のセッションの時間が来た。いよいよ自分の発表である。

その前に発表されたVan Eck & Jager: Social Network Structures in Agent Based Modeling: Finding an Optimal Structure Based on Survey Data (or Finding the Network That Does Not Exist)が興味深い。質問紙調査からネットワークのいくつかの重要指標の推測を行い,それを再現するネットワークを構築するという野心的な試みだ。自己申告内容がどこまで正確かという問題はあるが,目的がマクロな挙動の理解なら,そうしたバイアスはある程度許容される。

そして,Mizuno: The Effects of Valence of Word-of-Mouth and Its Propagation by Non-Adopters on New Product Diffusion: An Agent-Based Approach。クチコミの正と負は新製品採用後の満足-不満足によって生まれるが,それはまだ採用していない消費者間でも流布する可能性がある(彼らがクチコミに対してすぐ採用を決定しないなら)。そのことが与える影響が,ネットワークのタイプによってどう変わるかをシミュレーションによって示した。

正直いって,今回の発表は,まずスライドの構成の段階で失敗であった。自分の研究が何を目指し,どこに特徴があるかを,必ずしもマーケティング・モデルになじみのない大半の聴衆にうまく伝えることができなかった(もちろん,そこに自分の英語力の貧困が加わった)。しかし,チェアを勤めたマーケティング分野のエージェントモデルで先端的な研究をしているJagerさんが,発表者自身が正確にわかっていないモデルの特徴を鋭く見抜いたコメントをしてくれて助かった。

つまり,これは新製品採用の前後でのクチコミの働きを区別する研究であり,経験財の議論とも絡んでくると。このコメントに触発され,採用の前後で使われるネットワークが異なることないのかという指摘も出た。たとえば,新製品採用の原因になったクチコミは身近な友人(スモールワールド・ネットワーク)から得たが,その経験はソーシャルメディア(スケールフリー・ネットワーク)で流すとか,その逆とかいったことだ。なかなか興味深い視点だと思う。

ドイツに滞在中の佐藤さん(京都大学)からは,ネットワークがダイナミックに構成されるとき,シミュレーション結果がどう変わるかという質問を受けた。ネットワークを知り合いの関係と捉えると,短期的には安定しているが,情報の入手経路と考えると,日々選択的に再構成されている可能性は高い。その問題は重要だが,どのようにアプローチしていけばいいのか・・・。そうか,会議中にご本人に聞いてみるのが最も手っ取り早そうだ。

そのあと,ポスターセッションを経て,無料の市内バスツアーに参加した。約2時間を費やして市内の観光名所を巡るのだが,日本語の音声解説まであるのがありがたい。おかげで,カッセルの旧市街は戦災でほとんど消失したこと,戦後は他の都市とは違い古い建物を再建するより田園都市構想に基づき新たな建築物を造ったことなどを知った。確かに,いまとなっては古めかしい「モダン」な建築が多い。美しい街だが,住むには退屈かもしれない。

ツアーのクライマックスはライオン城である。小高い丘の上にある小さなお城だが,そこからの放水が名物になっているという。そこからの眺めを堪能した後バスに戻ってくると,シャンペンとサラミ(?),ベーグルプレッツェルなどが振る舞われた。この予想外のホスピタリティはなかなか素晴らしかった。ツアーが終わり,夜9時を超えて巨大なドイツの豚カツ(シュニッツェル)を食べ,ビールを飲む。こういう毎日を続けていると,ますます太りそうでこわい。

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