東京をうろうろする間に,小林浩,林信行『アップルとグーグル』を読了。今後ネットの世界を引っ張るのはアップルとグーグル,経営スタイルが最も注目されるのはアップルとグーグル,世の中になくてはならない企業はアップルとグーグル,と思う気持ちにおいて,著者に共感する点が多い。
アップルとグーグル 日本に迫るネット革命の覇者 小川 浩,林 信行 インプレスR&D このアイテムの詳細を見る |
アップルとグーグルの間には様々な相違点がある。著者はそれを,グーグルは道を作るのに対して,アップルはその上を走るクルマを作るという比喩に集約させる。アップルは,限られた顧客を熱狂させるクルマを作るという点で,ポルシェに近いという。iTunes や iPod はもっと大衆路線のようにもみえるが,ポルシェ自身 VW と経営統合したわけだから,このアナロジーは依然として有効かもしれない。一貫した美と快楽を追求する点で,BMW などドイツ車と近い存在であることは確かだ。
いずれにしろ,アップルのような強い熱狂を生み出すブランドを,日本企業から見出すことは難しい。著者は多くの日本企業,あるいはマイクロソフトの発想は「帰納法」的だが,アップルとグーグルは「演繹法」的だという。つまり,あるビジョン,夢に基づいて製品やサービスをデザインし,やみくもに顧客の要求を取り入れることはない。だから,銀メッキの iPod の背面は美しいが汚れやすいという意見に対して,拭けばいいじゃないか,という答えを返す。
スティーブ・ジョブズは取材を受けたとき,記者が iPod をケースに入れているのを見て,そんなものは外すようにといったエピソードが紹介されている。あなたも私も歳をとれば,顔に皺ができる,iPod も同じだといったという(実はぼくも iPod を入れるケースを持っている・・・)。
アップルは顧客が当たり前だと思っている機能を平気でカットする。FDもCDも,いずれいらなくなると思えば,本体からドライブを外してしまう。だが,顧客が本当に喜ぶ機能は付け加える。iPod にはあるときから,イヤフォン端子を外すと局の再生が停止する機能が付いた。これは,実際のユーザの行動をつぶさに観察することから生まれたのではないかと,著者は推察する。ただ,アップルはこの機能を付けたことを全く宣伝していないという。
著者がこの本で一番いいたかったことは,アップルとグーグルが連携(グーグルップル)すれば,すばらしい成果が生み出されるということのようだ。同じくシリコンバレーの企業であり,グーグルのCEOがアップルの社外取締役であり,それぞれが推進するブラウザに共通基盤があるなど,この期待を支持する証拠が列挙される。一方,次世代ケータイの覇権をめぐって,両社が競合する可能性も指摘されている。あるいは,いま予想もしない企業が勃興してくるかも・・・。
検索エンジンの世界でグーグルの支配が強まることへの警戒,アップルがネットのコンテンツ市場を独占することへの脅威論がある。その両社が組めば,それこそビックブラザーになりかねないが,マイクロソフトほどは非難されそうにない。どちらの企業も,本来的に「悪いこと」はしないという性善説が根強いように思う。経済学者から見ればナンセンスだろうけど,ぼく自身にもそういう気持ちがある。この不思議な力こそ,彼らが「革命」を担っている証拠かもしれない。