Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

大学教授の給料は高すぎる?

2009-12-29 16:40:49 | Weblog
弁護士・小倉秀夫氏のブログla_causetteで気になるエントリが続いている:

補助金漬けの産業」・・・私立学校振興助成法に基づく私立大学への補助金は、平成20年度で約3200億円です。平成20年度の大学の教員数は講師、助教、助手をひっくるめて、約9万7000人です。従って、教員一人あたり約340万円程度の補助金を国は大学の教員につぎ込んでいるということになります。
 介護ビジネスだって、一人あたり340万円もの補助金が設定されれば、もう少し担い手が増えるような気がします。

税金で350万円も年収を嵩上げしてあげる必要はあるのか」・・・現在、大学教授の平均年収が約1100万円、准教授の平均年収が約900万円ですから、教員一人あたりの補助金約350万円をここから差し引いても教授で平均750万円、准教授で平均550万円くらいになります。・・・補助金なんかなくったって、学者たちが上から目線で「規制に守られていて怪しからん!」と糾弾される職業に従事している人々よりよくよく多く貰っているように思われます・・・
この試算の根拠についてあれこれいうことは可能かもしれないが,それは本質から外れた議論になる。いずれにしても,大学の経営,大学教員の給料は多額の税金によって支えられているのは事実だ。そこを聖域化して,他の分野の規制緩和,補助金カットだけを叫ぶのはフェアではないといわれれば,その通りだというしかない。ただし,ここで小倉氏が例に挙げるような主張をしている「学者」は経済学者なので,他の分野の学者たちは,自分たちは別にそんな主張はしていない,一緒にしないでくれ,というかもしれない。

ただ,事業仕分けのときに垣間見えた,オレたちの研究に多額の税金が注ぎ込まれるのは当然で,その価値がわからないヤツはバカ,という一部理工系研究者の反応には,似たような特権意識を感じる。自分たちは他の連中が遊んでいる間,一生懸命勉強し,同様に高学歴の他の職業(弁護士?)に比べて低い給料に甘んじて研究している。そこで得られた成果が,国家や産業の競争力の源泉になっているのだ。そんなこともわからんとは・・・という主張だが,特に最後の部分が説得的であるためには「科学的」検証を要する。

ただ,そこをきちんと検証することは非常に難しい。他国との予算水準の比較とか,何かの相関係数を示すとかいった,厳密科学の世界では通用しない荒っぽい数字の操作がせいぜいだろう。結局のところ,富裕国の贅沢として,ドンブリ勘定で認めて下さいと平身低頭納税者にお願いするしかないのだ。その結果たまに「国全体に」名誉が転がり込んだり,産業の発展に寄与したり,いろんないいことも期待できるが,きわめて不確実だと。あとは国民の皆様のご厚意におすがりするしかないのであって,お前らバカにはわかるまい,などといえる立場では決してない。

したがって,税金から3200億円も私立大学に出すのはおかしい,という世論が優勢なら,わかりました,と従うしかない。その結果各大学がどうふるまうか,そして国民にどういう便益と費用が降りかかってくるかを熟慮しての決定なら,しかたない。他方,税金に依存しないのであれば,大学が教員にいくら給料を払おうと文句はいわれないはずだ。そこで,補助金が全廃されたときの私立大学経営をシミュレーションしてみる価値がある。まず各大学が補助金が減った分をすべて人件費カットでしのいだ場合だが,小倉氏によれば―

研究者の給与が世間並みで、どんな困ることが?」・・・「世間並みの給与しかもらえないのであれば、教員などやめて、チェーンのラーメン屋を起業してやるぜ」みたいな研究者ってほとんどいないのではないかと思うのです。研究と教育を生業としつつ、世間並みの給料がもらえる(しかも印税収入や講演収入等の副収入を得ることも可能)ということであれば、なお、研究者になろうというインセンティブはいささかも損なわれないのではないかと思われます。
これは半分ジョークだと思うが,一応真に受けて考えると,国際A級の研究者が海外流出したり,実務面で秀でた研究者が転業したりすることはかなり起きるだろう。多くの大学はそうした事態を好まず,一律に給料を下げるのでなく,一部の教員をリストラすると考えるほうが現実的だ。さらにブランド力がある大学は,学費を値上げして収入の落ち込みをカバーするだろう。その結果もたらされるのは,優れた教育を提供するバカ高い学費の少数の大学と,学費は比較的安いが(常勤)教員数が非常に少ない大学への二極化だ。

そういう結果になるのであれば,子どもの大学進学を望む有権者は,大学への税金投入を支持するだろう。ただし,大学への交付金・助成金ではなく,学生に奨学金を支給するという政策の選択肢もある。おそらく経済学者の多くは,理論上そちらを支持するはずだが,大学経営に関わっている場合は反対するかもしれない。しかし,既得権益の主張がいつまで通用するだろうか。経営・経済系の研究者は,教室で教えている理論を自らの足元に適用することが迫られている。それは幸福なことだ。理論と実践が一貫するのだから。

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