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あるマーケティング研究者の思考と行動

世論の誤解ではなく曲解だとしたら

2010-01-30 23:20:24 | Weblog
河野太郎議員が twitter で「自民党をいかに再生していくかを議論するときに、必読だと思います」と書いたのが,菅原琢『世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか 』(光文社新書) である。すでにあちこちで話題になっているが,確かに面白い本だ(自民党の再生を願うかどうかは別にして・・・)。本書では,東京大学と朝日新聞の共同調査が1つのベースになっている。その意味で,早稲田大学-読売新聞社の共同調査に基づく『政権交代はなぜ起きたか』と比較してもよいかもしれない。

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)
菅原琢,
光文社


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本書の重要な結論の一つは,2007年の参議院選挙ならびに2009年の衆議院選挙で自民党が敗北した原因として,小泉改革が農村部を疲弊させ,自民党の支持基盤を掘り崩したので民主党への政権交代が起きたというよく聞く「物語」を否定していることだ。いくつかのデータを分析すると,むしろ話は逆であった。小泉以降の自民党が郵政造反組を復党させるなど,「改革」を後退させる動きを見せたことが敗因だったと。この結論は,早大-読売の共同研究の結果とも一致している。

参院選で敗北したあとの自民党は,小泉改革の行き過ぎが敗因だという「物語」に乗って,2005年の「郵政選挙」で自民党に勝利をもたらした人々の離反を招いた。これは単なる事実誤認に基づく迷走だったのだろうか。本書のタイトルが「世論の誤解」ではなく「曲解」であることに注目したい。自民党の場合,ある意図に基づき,そのような物語を選択したということは十分納得がいく。では,同様にこの物語を流布したマスコミにとっても,それは誤解ではなく曲解だったのか・・・。

他方,民主党はなぜ勝利できたのか。1つの原因として,社民党や国民新党との選挙協力が功を奏して,従来民主党の基盤が弱い選挙区で議席を得たことが挙げられている。現在民主党がこれらの連立相手に引きずられているように見えるのは,単に参議院で過半数を確保するのに彼らの議席が必要だというだけでない。一定数の民主党議員が,彼らの選挙協力なしには当選がおぼつかないことが背景にあるということだ。この点は,かつての自民党と公明党の関係に似ているかもしれない。

本書ではそれ以外の要因も検討されているが,特に興味深いのはバンドワゴン効果の分析である。小選挙区では勝ち馬に乗らないと死票になるので,比例区に現れる政党支持率に比べて候補者の得票率が高くなる傾向がある。ところが,昨年の総選挙では,過去にそうした傾向が強かった候補者ほど得票を減らしている。民主党候補の当選可能性が高まったため,以前なら死票になることを嫌っていた有権者が民主党候補に投票し,さらに反自民票が民主党に集中してしまったせいである。

そして今度は,民主党がバンドワゴン効果を享受する立場に代わった。では,自民党にまさに起きたように,この効果は早晩消え去り,振り子は元に戻るのだろうか。本書はそれには否定的だ。もっとも昨今のマスコミの論調を見ると,世論が大きく変化する可能性もある。本書では,次の首相に誰が「ふさわしいか」といった調査や,ネットや秋葉原で麻生氏に人気があると報じてきたマスコミの誤ったデータ処理が批判される。こうした報道は誤解なのか曲解なのか,その差は重要だ。

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