Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS@電通ホール~プラトーを超える

2010-11-29 08:42:30 | Weblog
11月27~28日は,汐留の電通ホールで開かれた日本マーケティング・サイエンス学会の研究大会に参加した。もう20年近く,春と秋の大会にほとんど参加してきた。つまり,自分にとっては正月やクリスマスに近い年中行事である。それだけに,大概の発表では刺激を受けなくなってきた。しかし,質疑応答や懇親会での会話が心を揺さぶることもある。

マーケティング組織の「市場志向」を調べた研究に対して,片平秀貴先生から,いまの時代そもそも社内に独立した組織としてマーケティング部門を持つことこそ,どうしようもないというコメントがあった。また,市場志向という概念自体,現在意味のあることなのかどうかとも指摘された。後のセッションで阿部誠先生もまた,同じ意見を表明されていた。

これは1つの例にすぎない。この学会ではどれだけ「先端的な」分析手法を用いているかが関心を集めがちだが,それ以前に,取り上げているテーマがどこまで現代的で,その分析枠組みが革新的かどうかが問われなくてはならない。そういう観点から振り返ると,冒頭で取り上げた研究に限らず,多くの研究が迷路に入り込んでいるといわざるを得ない。

では,自分たちの発表はどうであったか?
新保直樹,高階勇人,田内真惟人,城沙友梨(構造計画研究所),水野誠(明治大学):Twitterによる企業と顧客の対話:企業ツイートのコミュニケーション効果分析
ツイッターをテーマとして取り上げていること自体は現代的といえるだろう。もちろん,マーケティングにおいて,ただ新しい話題を取り上げればよいという問題ではない。それをいかに新しく扱うかも重要だ。

この研究のポイントは2つある。企業がツイッターを用いたコミュニケーションを行うときの「対話効果」と「情報拡散効果」だ。後者について,ツイッターは貴重な情報を提供してくれる。今回分かったことは,企業アカウントのフォロワーを超えた情報伝播力はフォロワー数と関係がないこと,そして,個々のツイートの拡散範囲はベキ分布に従うことだ。

では,まれに爆発的な拡散が起きるのはなぜか。そこまで分析が及ばなかったのであくまで予想だが,それはツイートの内容や単なるタイミングといった「個別要因」だけではたいして説明できないだろう。当の企業がいかにつぶやいてきたか,そのとき世のなかで何が起きていたか,さらには各人のタイムラインで何が流れていたかという「文脈要因」が重要だ。

一方,対話の効果はどうか。企業から消費者への返信と消費者から企業への返信に相関がある。両者の間の返信のセンチメント(ポジティブかどうか)にも相関がある。このことは対話の正のスパイラルを示唆しているように思う。ただし,それがさらにどんな効果を持つかを検証することは難しい。ソーシャルメディア・マーケティング全体が抱える課題でもある。

われわれのあとに発表した日経リサーチの佐藤邦弘さんは,ブログやツイッターで起きているコミュニケーションを可視化し,定性的に理解しようとしている。個別事例の分析からインサイトを得ることは非常に重要である。われわれの発表にコメントされた電通の丸岡吉人さんが指摘されたように,対象は急速に変化しており,一般化するのは時期尚早である。

いずれにしろ,こうした研究が分析枠組みにおいても革新的であったというつもりはない。ただ,これまでにない対象を相手にすることで,個々の手法の背後にあるパラダイム変換が迫られていることは確かだ。そういう意味で,視覚マーケティングに取り組む中川宏道さんや里村卓也さんの研究も見逃せないものであった。革新の芽生えは確実に存在している。

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