Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

世界の経営学と日本の経営学

2013-01-13 10:11:14 | Weblog
話題の本を読んでみた。著者の入山章栄氏は米国の大学で教える経営学者である。北米で研究されている経営学は,日本における経営学とかなり異なる,一線級の経営学者は自分の研究に忙しくドラッカーを読んでいる時間はないという,いささか挑発的な指摘で本書は始まる。

入山氏によれば,日本の経営学は定性的な研究が多く,個別企業への事例研究を重視するが,北米(あるいは多くの欧州・アジアの経営大学院)では定量的な研究が中心で,一定規模のデータを用いた法則定立的な研究を重視している。つまり,科学であることが目指されている。

本書では,経営学の一流論文誌に掲載された記念碑的な研究が次々と紹介される。著者の非常にわかりやすい語り口もあり,なじみのなかった経営学の最先端の研究が「意外に」に面白いことに気づかされる。経営学について,こういう書籍はあまりなかったのではないかと思う。

重回帰分析をすれば計量分析だという時代ではもはやないようだ。説明変数の内生性に対処するために,計量経済学の高度な手法を適用しなくてはならない。社会ネットワーク分析や実験的アプローチも増えている。このあたりはマーケティング・サイエンスの潮流とも一致する。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
入山章栄
英治出版

本書の影響で,こういう経営学こそ学びたいと思う学生や社会人が次々現れても不思議ではない。しかし,日本にそうしたニーズに応えられる大学院がどれだけあるか,と考えるといささか心許ない。数は少ないが適任の教員はいるので,探して弟子入りするか,留学するか・・・。

もちろん著者は,北米流経営学に比べ日本流は劣ると主張しているわけではない。北米でも伝統的な計量分析に対する反省は生まれており,経営成果がベキ分布になることを考慮して「平均値」ではなく「外れ値」に注目しようという主張もある。事例研究も再評価されているという。

日本の経営学が独自に進化しているのなら,「日本の経営学者はいま何を考えているのか」という本をぜひどなたか書いてほしい。専門論文よりドラッカー,それどころか古今東西の哲学書や歴史書を読み熟考することが,データ解析よりはるかに価値があると主張するとか・・・。

本書は門外漢が世界の経営学の最先端を一瞥できるには最適の本である。紹介されているいくつかの論文は,実際読んでみたいと思った。それ以上に,ガラパゴス島の自称研究者として今後どう生きていくか,考えさせられる本でもある。そこから得る教訓は読者によって様々であろう。

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