Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

誘惑に負けるのも人生だ

2008-11-26 23:35:22 | Weblog
本屋で立花隆氏の薦める『細胞の分子生物学』や『数学 その形式と機能』を手に取ってみた。自分に本当にこれが読めるだろうかという不安の一方で,ゆったりとこの大著のページをめくっている自分の姿を想像したりする。そういう時間が全くあり得ないとは言い切れない。それが,誘惑というものだ。

本屋は誘惑に満ちている。

小島寛之氏の『容疑者ケインズ』は,1章でケインズ型財政政策に乗数効果が本当にあるのかを,2章ではバブルがはじけるとなぜ不況になるかを論じている。それもデータを分析するのではなく,簡単な数値例を用いた理論的考察によって。それはある意味で寓話にも似た話なので,経済政策と関わるマクロ経済の現実とどう結びつけてよいのか,正直よくわからない。

容疑者ケインズ―不況、バブル、格差。すべてはこの男のアタマの中にある。 (ピンポイント選書)
小島 寛之
プレジデント社

このアイテムの詳細を見る

3章で著者は,意思決定論へと話を進める。それがケインズを理解するうえでも重要だという。しかし,そういう文脈を離れても,そこで紹介される「誘惑と自己規制」に関する経済理論は興味深い。原論文はきわめて数理的(公理論的)で難易度が高いが,本書ではジェームズ・ジョイスの小説を例にとって解説するなど,直感的に理解できるよう工夫している。

その論文では「誘惑」はメニューセットの選択という設定で語られる。つまり,選択肢となるセットのなかに,魅惑的であるが消費すると不効用を伴うものがあり,それが誘惑だと。誘惑に負けないためには,自己統制する必要がある。酒を断る自信がなければ宴会に行くべきでないし,金と時間が逼迫した読者家は本屋に行かないほうがよい。もちろん,人はしばしば自己統制に失敗する。

誘惑は,救いようのない悩みや後悔をつねに伴う。それを合理的経済人の選択としてモデル化していくことには限界があると思う。むしろ,現実に対してオープンな経験的研究に期待したい。最近出版されたばかりの以下の本には,誘惑といった「戦略的な」概念は出てこないが,それを基礎づける意思決定の心的メカニズムについて,これまでの研究がコンパクトにまとめられている。

意思決定心理学への招待 (新心理学ライブラリ)
奥田 秀宇
サイエンス社

このアイテムの詳細を見る

薄いといっても,中身が濃い本なので,スイスイ読めるわけではないだろう。しばらく,あちこちに持ち歩くことになる。それにしても選好の研究は,経済学と心理学が入り乱れて,これからますます面白くなっていきそうだ。
 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。