Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

学歴インフレ時代の就活戦略

2010-02-18 23:57:09 | Weblog
この本の著者は,リクルートエージェントを皮切りに人事コンサルタントとして長い経験を持ち,「エンゼルバンク」に登場する海老沢康生のモデルになった方だという。著者は最初に,いまの大学生,それを送り出す大学の問題を指摘する。面白い内容だが,大学教員としては,ただ面白がっているわけにはいかない。しかし本書の後半では,就活に臨む学生はもちろん,親や教師にとっても示唆に富んだ話が出てきて,ただ面白いというより,役に立つ本といえる。

学歴の耐えられない軽さ やばくないか、その大学、その会社、その常識,
海老原 嗣生,
朝日新聞出版,


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第1章は「学歴のインフレーション」。「早慶は昔の早慶ならず」という節では,少子化が進み,大学の生き残りが厳しくなるなか,早稲田大学は一般入試以外の入学経路を大幅に増やす戦略をとったと指摘。一方,慶應義塾大学は,独自の入試パタンを他大学に近い形に変えて,受験者を増やすのに成功したという。本書はそれが両校の競争力に貢献したと指摘しつつ,長い目では学生の質の低下を促進していると批判的だ。ただこれは,早慶だけの問題でない。

若年人口が減少する一方,大学進学率が上昇しているのだから,多くの大学で学生の質の低下が見られるのは当然である。そんななか一時的な「粉飾」操作をしても,本質的な解決にはならない。では,どうすればいいのか。著者の出す処方箋は,多くの大学は従来のように学者になるための学問ではなく,社会に出たとき役に立つ実務的知識をもっと教えるべきだというもの。自分はまず研究者だと自己規定する大学教員には,受け入れがたい提案かもしれない。

私大商学部の教員として,その主張はさほど奇異には聞こえない。少しずつではあるが,著者が提案する方向に大学が変化していると感じるからだ。ただし,そうした変化はカリキュラム全体というより,一部の授業やゼミで起きている。リサーチやプラニングのグループ作業,プレゼンなど,社会で役立ちそうなスキルを体得させる。昔は就職後に時間をかけて身につけたことだが,企業に余裕がなくなるにつれ,大学で体験しておくことの意味が出てきた。

2章以降は,大学生の就活,あるいは企業の採用活動が俎上に上がる。第三章の「若者はけっこうカワイソウではない」では,海老原氏は客観的なデータに基づき,20 代での転職がこれまでずっと,けっこう起きてきたことを指摘する。20代に2回,そのチャンスがあるという。新卒のとき不況で希望通りの就職ができなくても,これまでの景気循環の周期を考えると 20 代のうちに好況が来る確率は高く,そこで「リベンジ」できるという。

不況のときでも,中小企業の求人は倍率は1を上回る。したがって,新卒者は大手に就職できなくとも,まずは中小企業に正社員として就職し,20代後半に景気が回復したとき,再就職を目指すべきだという。また「就社より就職」という主張は日本では誤りだと批判,どのような企業を就職先に選ぶべきかを論じる。それによれば「従業員150名」というのが1つの目安になる。なぜそう考えるのかに,著者独自の経験と見解が反映されていて興味深い。

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