Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

メディアのすき間を探せ

2008-10-18 23:16:59 | Weblog
夜の電車では,老若男女が携帯電話の画面を眺めている。メールをやりとりしているのか,ニュースを見ているのか,ゲームをしているのか…。酔っ払って眠りこける男性の手にも,携帯が握られている(それでも落とさないはすごい)。こうした光景は,モバイル・マーケティングの可能性を裏づけているように見える。だが,それは生活の一断面でしかない。別の断面ではウェブが,あるいはマスメディアが圧倒的に重要になる。だから,それらをつないで「クロスメディア」… という話に進んでいく。

しかし,すでにあるメディアをつなぐだけでなく,メディアでカバーされない「すき間」をメディア化することが重要だという主張もある。昨日のエントリで紹介した DHBR 11月号に掲載された「『ビビスティシャル』とは何か」という小論がそうだ。vivistitial とは,まだ広告が侵入していない日常のすき間だという。さらにこれを細分化して,locostitial(場所のすき間),psychostitial(心のすき間),sociostitial(社会生活のすき間)等々が考えられている。どこもかしこも広告で埋め尽くされていいのかという議論もあり得ようが,少なくとも思考実験として考える価値はある。

もうひとつ興味深かったのが「贅沢や無駄使いは悪とは言い切れない」という小論。JMR や JCR に掲載された論文をベースにしており,科学的裏づけがあるといってよい。消費者は短期的な視野しか持たない場合,自己統制的になり贅沢はしない。ところが遠い将来まで視野に入れると,贅沢を選好するという。最後に引用されている,米国の政治家のことばがいい―「死の床にあって,『オフィスでもっと時間を過ごせばよかった』と嘆いた者は,いまだかって一人もいない」。 …「いまだかって一人もいない」と言い切るのがいいなぁ。

一見地味な消費者行動研究の結果が,経営者をターゲットにした雑誌に載る。日本では,あまり聞いたことがないことだ。実験的研究から「経営上の含意」をどこまで語るのか,本来は慎重でなくてはならないが,実務家のイマジネーションを刺激するために,多少の飛躍はやむを得ないとも思う。消費者に遠い未来まで考えさせることは,消費の刺激という以上に,人生を豊かにする価値がある。

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