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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ワルシャワ同窓会,ではなく JIMS 部会

2010-12-11 07:45:36 | Weblog
水曜の夜,今年最後の JIMS 消費者行動のダイナミクス研究部会を開く。最初の発表は,京都大学の佐藤彰洋さんによる「国内ホテル予約サイトデータを用いた旅行行動パターンの統計分析」。本来は,外国為替を主な研究対象とする佐藤さんだが,今回はホテル予約サイトに表示される,予約可能なプランの数というマーケティング・データの分析に取り組む。

この研究では,予約サイトに表示されるホテルの予約可能プラン数はポアソン分布に従うと仮定する。ただし,その発生確率は季節性,曜日など様々な要因で変動する。そこで,日々の予約可能なプラン数は,異なる(クラスに属する)発生確率を混合したもので決まると考える。クラス数設定,ポアソン分布の仮定の妥当性などを巡って活発な議論が起きた。

二番目は,立正大学の小野崎保さんの「消費者の合理性に依存するマーケットシェア・ダイナミクス」。小野崎さんの問題意識は,新古典派経済学では競争の帰結として寡占や独占が生じるプロセスを的確に理解できない,というもの。そこで,同質財をめぐって価格と数量を模索的な学習によって決定する企業間の競争をエージェントベース・モデル化する。

このモデルでカギとなる役割を担うのは消費者だ。彼らが現在購入している製品から別の製品にスウィッチするとき,製品の入手可能性に基づく効用が影響する。消費者がこの効用に忠実であるほど(つまり「合理的」であるほど),市場は独占化する(ただし独占下での企業行動が消費者の効用を下げるので,新規参入により独占が周期的に崩壊する)。

消費者にとって最も望ましい(ただし企業の利益が最も小さくなる)のは,消費者が中程度に「合理的」な場合だという。つまり,消費者行動に多少ノイズが含まれているとき,市場は独占に向かうことを妨げられる。大変興味深い結果である。と同時に,現代の市場を特徴づける差別化された財の市場ではどうなるのか,研究の今後の発展が期待される。

佐藤さんと小野崎さんとは2年前,ワルシャワで開かれた ESHIA/WEHIA でお会いし,学会の合間に市内を歩き回った仲でもある。物理学から経済学の対象領域へ越境しようとする佐藤さん,経済学の問題解決に物理学的なモデルを導入しようとする小野崎さんという,それぞれ学問の境界領域で活躍するお二人の研究に触れ,あらためて刺激を受けた夜であった。

来年,ESHIA/WEHIA はイタリアのアンコナで開かれる。

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