Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

人工物と言語の進化

2013-03-19 19:07:10 | Weblog
昨日の JIMS 部会では,複雑系あるいは進化経済学の分野からお二人の研究者をお招きした。最初は北海道大学の小林大州介さんによる「人工物進化とプロダクトイノベーション戦略」という発表。まずは,人工物が進化するとはどういうことか,から説き起こす。

生物であれば遺伝子が進化を担うが,人工物の場合,それは何なのか。保持され変異し選択される情報とは何なのか。生物学・人類学から社会科学,あるいは哲学を巻き込み,さまざまな議論がなされてきた。そのなかで小林さんが注目するのは認知考古学である。

人工物の進化を考えるとき,自明ではない個体群をいかに規定するかという認知上の問題が生じる。これはカテゴライゼーションの問題なので,認知考古学では Rosch のプロトタイプ理論に基づく研究が行われている。小林さんの研究もその流れに沿っているようだ。

カテゴリーには中心的属性と周縁的属性がある。周縁的属性が新たな中心になる形でカテゴリーの進化が起きる・・・というのがぼくが理解した範囲での仮説である。携帯電話を例にそうした進化の素描が紹介されたが,今後さらに詳しい分析が行われることが期待される。

後半は,北陸先端科学技術大学院大学の橋本敬さんによる「コミュニケーションシステムの共創:言語進化実験による検討」という発表。記号と意味が対応づけられるコミュニケーション・システムがいかに「共創」されるかを,被験者実験を通じて構成しようとする。

実験は隔離された2人の間で行われるゲームである。お互いの選択が一致すると,ともに利益を得る。ただ,両者の間に許されるコミュニケーションは,本来意味のない抽象図形のやりとりだけである。そこから出発して各記号が「意味」を持つに至るかどうか。

21組の実験の結果,持続的なコミュニケーションに成功するペアが現れる。失敗したペアと比較すると,成功したペアでは記号の直接的な意味(denotation)が共有されるだけでなく,役割を示唆する言外の意味(connotaion)が成立していることが示される。

橋本さんはこうした実験の知見と,有名な野中-竹内の知識創造の理論(SECIモデル)を結びつけ,コミュニケーションを通じた新しい知識の創造(共創)を構想している。さらに,今回時間の制約で割愛されたが,サービス・サイエンスへの応用も検討されている。

お二人の研究は人工物とコミュニケーション,モノとコトバという人類にとって本質的な存在がいかに進化し得るかを,理論と実証を通じて究明しようとするもので非常にスケールが大きい。そして,いずれも認知と進化というキーワードでオーバーラップしている。

一見マーケティングとかけ離れた話に見えるが,人工物の進化論は製品ライフサイクル論を超えるものとしての発展が期待される。コミュニケーション共創実験は,企業と消費者,消費者間のインタラクションを生成することが課題になっている今日,深い洞察を与えてくれる。

最後に,今回お話しいただいた橋本敬さんのご著書の一部を紹介しておく:

境界知のダイナミズム
(フォーラム共通知をひらく)
瀬名秀明, 梅田聡,橋本敬
岩波書店


進化経済学 基礎
江頭 進, 澤邊 紀生, 橋本 敬, 西部 忠, 吉田 雅明
日本経済評論社



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