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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

好かれる方法

2006-10-09 23:54:35 | Weblog
好かれる方法』という新書をタイトルに引かれて読んでみた。理由はいうまでもなく選好形成の研究に何か参考にならないかと思ったからである。本の帯には,著者である矢島尚氏は,昨年の総選挙での自民党の大勝に貢献したPR会社のトップだと書かれている。そこで,世論誘導のプロがその極意を明らかにするのかと期待させられる。

しかし,本書の冒頭(p.11)で著者は以下のように述べる・・・

 私たちは魔法の杖を振り回してカボチャを馬車にすることは出来ません。また一般の人に催眠術をかけて「このカボチャは馬車だ」と信じ込ませることも出来ません。
 その代わりに,顔中が灰で汚れている女性の顔を拭いて,本来の美貌を見出すことは出来るかもしれません。さらに彼女をお城まで連れて行って,「この人は王子のお妃に向いています」とお勧めすることのお手伝いもできるかもしれません。
 つまり私たちが出来ること,やっていることはあくまでも,対象が本来持っている魅力を最大限にアピールするためのお手伝いなのです。

・・・著者は,さすがに一流のコミュニケータだけあって,自分たちの力を誇示せず,かつ批判を避ける見事な表現をしている。また,これが当事者としての実感であろうとも思う。現実には,思ったようにコミュニケーション戦略が成功しないことは多々あるはずだから。

だが,灰で汚れた顔を拭いてあげたあと,素顔に化粧を施すことはないだろうか。あるいは,いくつもある「素顔」のどれを出すかを戦略的に操作することはないだろうか。いうまでもなく,そこがコミュニケーションビジネスの極意となる部分のはずだ。

選好の形成/変容についても同じことがいえるだろう。誰にとっても美しいものは美しく,魅力的なものは魅力的だ。それは決まりきった,一種のルーティンといってよい。ただ,多数ある美しいもの,魅力的なものから特定のものを選び,あるコンテクストを構成することで,人間はある方向へ「誘導」され得る。

そう考えると,矢島氏がPRの機能をメルヘンの比喩で語るのは意味が深い。それがまさに,コンテクスト操作の例といえるだろう。

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