Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

日本発の経営研究とは

2008-09-20 20:29:57 | Weblog
最近,本や雑誌を捨てることばかり考えているが,一方,新たな文献を買わなくては,知識は更新されない。最近買ったものに,以下の2つの雑誌がある。まずは,一橋ビジネスレビュー… 経営学で 21世紀COE をとった一橋大,神戸大,東京大が順に特集を組む。今回はその最終回。そのタイトルは「日本発ものづくり経営学」だ。
一橋ビジネスレビュー 2008年夏号

東洋経済新報社

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日本が独自の経営学を持つとしたら,「ものづくり」に注目するのは当然だろう。その典型は自動車産業であり,製造業だ。しかし,そこを越えていかないと,日本経済にも日本の経営学にも未来はない。だからこの特集でも,具承桓他「ものづくり概念のサービス業への適用」のような方向性が示されている。「ものづくり」をシステム論的に捉えるならば,サービス業への拡張はごく自然な流れだ。最近,経産省が力を入れる「サービス工学」も,基本的に同じ方向を目指している。

だが,既存のものづくりノウハウを転用することで,日本のサービス業が高い付加価値創出力と国際競争力を持つようになるかというと,それだけで十分とは思えない。それは,強いといわれる日本の製造業もまだ実現できていないものであり,製造業/サービス業という産業分類を超えた,共通の目標といってもよい。ただし,リーマンの破綻を見ていると,米国のサービス産業が盤石だとも思えない。その意味で「日本発」というこだわりには価値がある。

日本発の経営学あるいはマーケティングが究明すべきかを考えると,やはり,藤本-Clark がかつて指摘したインテグリティ(integrity)という概念に回帰する。それは,単に製品の技術属性を超えて,サービスやセールス,マーケティング・コミュニケーションにまで及ぶべきものだ。したがって,サービス業にとっても,施設や機器という「もの」をシステムの一部に含むインテグリティを考えることができる。

マーケティング・サイエンスにとって,インテグリティという概念を追求することは,大きな挑戦になる。なぜなら全体が部分の総和ではない,という言い古された命題を受けとめざるを得ないからだ。たとえばブランドという本質的にインテグラルなものを,どういう方法であれ,多次元的な尺度の加重和で評価しようとするのではその真価を見失う。もっともぼく自身,これまでそういうアプローチに親しんできたし,そこから脱却する正しい方法を確立しているわけではない。

2冊目に買ったのは,アテスという雑誌だ。そこでは「トヨタの秘密。」が特集されている。そこで紹介されているトヨタの様々な姿は万華鏡のようで,何がトヨタかを一言で語るのは簡単ではない。興味深いのは,表紙にも使われている,劇画に描かれたトヨタ車の姿である。クルマ好きの人々にとって,トヨタとは何だったのか,そこから読み取れるかもしれない。時間がとれたらそれらの劇画を「大人買い」してみようかと思う(趣味と実益を兼ねたフィールドリサーチだ!)。

ATES (アテス) 2008年 10月号 [雑誌]

阪急コミュニケーションズ

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特集のなかに「トヨタ本」の紹介記事がある。国際的にも有名な,門田安弘『トヨタプロダクションシステム』が含まれていないのはどういうわけだ? ともかく,トヨタがつねに将来に危機感を抱き,安住ということばを知らない企業だとすると,現在のシステムを絶賛する本をいくら読んでも,トヨタの未来は読めないはず。トヨタは今後,ものづくりにこだわりながら,一方でますます「サービス化」の様相を強めていくと思われる。そこからどんなインテグリティが生まれるか,そこまではこの特集に書かれていない。


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