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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

消費が複雑系である証拠

2009-01-21 19:31:22 | Weblog
昨夜は遅くまで起きて,米国のオバマ新大統領の就任演説を聞いた人も少なくないだろう。ぼくは聞かなかった。翌日(今日)のセミナーの準備で,それどころではなかったからだ。今回は選択の文脈効果の話をした。冒頭で,大きな本屋では平積みされている『予想どおりに不合理』の話題を出した。この本が第1章でまさにこの問題を取り上げているからだ。マーケティングよりの行動経済学にとって(著者がそうだ),文脈効果は大きな鉱脈だ。そこには,まだ掘り起こされていない,誰も知らない,大きな研究資源が隠されているような気すらする。

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
ダン アリエリー,Dan Ariely
早川書房

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ぼくの文脈効果との出会いは,片平先生の『マーケティング・サイエンス』を初めて読んだときである。選択理論の正則性(regularity)を破るものとしての,非対称に優越された選択肢(おとり)の話にわくわくした。マーケティング・サイエンスの奥深さに触れたような気がした。だが,それ以降,このテーマは単なる知識として,頭のなかにしまってあるだけであった。だが最近,「選択における葛藤」の実験プロジェクトに関わり始めて,文脈効果への距離がぐんと短くなった。昨年秋,JACS で都築先生の発表を聞いたことも大いに助けになった。

マーケティング・サイエンス
片平 秀貴
東京大学出版会

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今度は,院生の山田君が,JMR1月号 に,文脈効果(魅力効果)を fMRI を使って脳神経科学的に研究した論文が出ることを見つけてきた。これがとりあえず,発表されている限りの,文脈効果研究の最先端といえるだろう。この研究では,選択の文脈効果と負の情動が相関していることが示されている。それは,従来の研究で多かった,意思決定方略のバイアスだという説明を排除するものではないが,ただ,それだけで説明しようとする旧来の認知科学的バイアス?を排除するものだといえる。情動と理性は隣り合わせなのだ。

文脈効果の素晴らしいところは,選択という行為が,選択肢間の相互作用を無視して語れないことを示唆している点にある。たった3つの選択肢であっても,そこから思っている以上に複雑な関係が発生する。人間関係の複雑さが,3者関係から生じるのと同じことである。それによって,単純にして美しい選択モデルの世界にとどまることはできなくなるかもしれないが,むしろ複雑にして美しい世界へと進むことができる。どちらを研究者として幸せに思うかは,人それぞれであろうが,ぼくは(少なくともいまは)圧倒的に後者を好む。

もちろん,現段階の研究は,地道に一歩一歩進んでいるので,そこからいきなり消費の複雑系が現れ出ることはない。しかし,その可能性を秘めていると,ぼくは思う。もう一つの課題は,それをどう実務に生かしていくかだ。優れたセールスパーソンの説得テクニックを解明するという以上に,もっとダイナミックな応用はないだろうか。それを考えるには,おとりの戦略だけを考えていては限界がある。ただ「おとり」という表現自体に,生物界や人間界のリアリズムに近い気配がある。同様の画期的なアナロジーが,新たな研究の突破口になるかもしれない。
  

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