Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

セルオートマトンから気迫ある製品企画まで

2014-01-16 01:02:57 | Weblog
本日の企業・産業の進化研究会@東京大学はなかなか刺激的だった。最初の発表者は、稲水伸行(筑波大学)、福澤光啓(成蹊大学)両氏で、実際の工場の生産ラインでリーダーがどう行動するかを観察し、そこから得た洞察に基づきエージェントベースモデルを構築している。

構築されたモデルは、西成活裕氏の『渋滞学』で紹介されている1次元のセルオートマトン・モデルに着想を得ている。そこから、生産ラインの密度、事故の発生率、リーダーの介入などがもたらす効果が解析される。シンプルなモデルにも非線形性が生じていて興味深い。

さらに興味深かったのは、聴衆からのさまざまなコメントであった。特に、塩沢由典先生(中央大学)から、より普遍的なオートマトン・モデルとして研究を進めたらどうかという提案があったこと。帰り道に、戸田格子、ソリトン、箱玉系の数理、等々について教わった。

マーケティングでのエージェント・モデルの嚆矢が Goldenberg, Libai & Muller 2001 だとすると、それはまさにセルオートマトン・モデルであった。現実への適合を目指し、エージェントに内部構造を持たせたり、エージェント間を複雑ネットワークで結んだりすればいいとは限らない。

ぼく自身、エージェントベース・モデルを用いた研究を進めるにあたり、その原点を確認する必要があると考えている。となると、オートマトン・モデルでマーケティング現象の何が語れるのか、そこから普遍的な何かへ架橋できるのか、といったことをもっと考えるべきだろう。

後半では、藤本隆宏氏(東京大学)が、今年1月10日に日経の経済教室に掲載された「成長へ「現場」強化支援へを」という寄稿について話された。それは、アベノミクスには供給側、とりわけ生産の「現場」への視点が欠けている、という問題意識に基づくものである。

そのことに異論はないが、需要側は重要ではないのかという疑問に対して、藤本先生は「気迫のある製品企画」が必要だと述べられた。それは、顧客の人生を変えてみせる、というほどの気迫だという。例としてあげられたのが、ハーレダビッドソンとホンダNシリーズであった。

マーケティングの人間としては、正直いうと、生産ラインの話より製品企画の話のほうに興味があるので、そこをもっと深く聴きたい気がした。とはいえ、それはむしろ、マーケティングの研究者が頑張って仕事をすべき領域といえるだろう(すでに優れた研究があるかも・・・)。

今日の二題は、製造業の「現場」を扱ったものであったが、7時から10時半まで続くこの研究会の伝統のおかげで、さまざまな話題が飛び出して勉強になった。セルオートマトンから気迫ある製品企画まで、自分としてもどうにかして手を出してみたいテーマである。

渋滞学 (新潮選書)
西成活裕
新潮社

また、以下の書籍には、稲水さんが、組織論におけるエージェントベース・モデリングに関して概観した章がある。

組織論レビューII
組織学会
白桃書房

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