Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

定額給付金の真の効果

2008-11-13 23:46:20 | Weblog
定額給付金をめぐって,マスコミはもちろん,ブログでも様々な議論が起きている。そもそもこの政策にどの程度景気浮揚効果があるのか,専門家であるマクロ経済学者はどう評価しているのだろうか? ネット上で検索するとまず見つかったのが,岩本康志東大教授のブログだ。

 ほぼ余計な追加的経済対策

ここで岩本氏は,現代マクロ経済学の標準的な理論に則り,数年後に消費税の増税が約束されている状況で給付金を配っても貯蓄に回るだけであり,「非常に効率の悪い政策である。定額給付金はやらない方がいい。」と断じている。さらに,

 定額給付金の所得制限をめぐる迷走

では,給付金をより消費に回しそうな(限界消費性向が高い)人をターゲットとした給付が可能かどうか,「思考実験」することを提案している。ところが現実の政策は,政策の有効性を追求するのとは全く別の方向へ「迷走」しているように見える。

小泉政権の閣僚であり,現在慶応大学の教授である竹中平蔵氏は,現在の政府が取ろうとしている「バラマキ」政策より,小泉政権を継承した「改革路線」のほうが景気回復にも選挙対策にも効果的だと主張している。

 経済対策「3つのシナリオ」

面白いのは,竹中氏が第3のシナリオとして,現在の案よりもっと大規模な財政拡大策をあげている点だ(「イチかバチかシナリオ」)。その結果,一時的に景気は良くなり,選挙に有利に働くが,そのツケは大きく,日本経済は「ガタガタになる」という。

やはり財務省の官僚として小泉政権を支え,その後退職して東洋大学の教授となった高橋洋一氏は,有名なマンデル-フレミング・モデルに従えば,定額給付金は金融政策とセットにしないと,景気浮揚効果を発揮しないと述べている。

 埋蔵金による減税政策は悪いのか

さらに岩本氏と同様,将来の増税とセットになっている点で効果が殺がれてしまうと見る。他の経済学者の意見も聞く必要があるが,マクロ経済の専門家の多くが,今回の政策の景気浮揚効果に対して懐疑的であることは容易に予想できる。

だが,与党の幹部にとって,そんなことは先刻承知のことかもしれない。重要なのは景気刺激効果ではなく,選挙の集票効果なのだ。竹中氏は与党は「改革路線」をとったほうが選挙に有利だというが,当事者たちは全くそう考えていないようだ。

定額給付金をもらった有権者たちは,期待された通り与党に投票するだろうか? 彼らが「合理的」ならそうしないだろう。もらうものはもらうが,誰に投票するかは別だと。だが,政治家たちは経済はともかく,選挙民のことはよく知っている可能性がある。

以下の本によれば,人間の心には,もらったらお返ししなくてはならない,という reciprocity(返報性,互酬性)の原理がプログラムされている,という。有能なセールスパースンは,顧客のこうした心の働きを利用して,うまく商売を進めているわけだ。

影響力の武器[第二版]
ロバート・B・チャルディーニ
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こうした人間が無意識に持つ reciprocity が選挙で効果を発揮する可能性がないとはいえない。ということは,次の総選挙は,経済学が仮定する合理性と,社会心理学や行動経済学が仮定する根深いバイアスのどちらが投票行動をよく説明するのか,検証する場になる? いやはや…
 

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