Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

クリエイティビティと競争

2007-11-13 23:31:02 | Weblog
谷間に咲く百合の花のように,比較的自由な時間に恵まれた日。次の課題となるプロジェクトのため,データを見直したり,分析アルゴリズムを考えたり。

夜,TBS の NEWS23 で,グラフィックデザイナーの佐藤卓氏や文化人類学者の竹村真一氏(竹村健一氏のご子息といったほうがわかりやすい)が企画する water というイベントを取り上げていた。環境問題をしかめっ面ではなく,ニコニコしながら語ろうというコンセプトはいい。デザイナーの力はすごい。優れたデザイナーがどんどん登場して,世間がそれを受け入れたら,世のなかもっとよくなるのではないか。

いやいや,クリエイティビティを持つ人間の数は限られる。成功するデザイナーはごく一部だから高い報酬が支払われる。その結果,世のなかの大半のデザインは貧しいままである・・・と訳知り顔で語る声が聞こえてくる。だが,それで話を終わらせたくない。すべての人がクリエイティブになれないとしても,そういう人が少しでも増えること,あるいは一人ひとりがほんのわずかでもクリエイティブになることを願うことは,さほど無茶な夢ではないと思う。

クリエイティブであることと競争はどう関係するのだろうか。いうまでもなく,優れたクリエイターたちは競争している。だが,彼らは経営学者の「競争戦略論」がいうような,参入障壁を築いて他者の追随を防ぐ方向で努力しているとは思えない。では差別化はどうかというと,それは必要条件であって十分条件ではないと思う。差異がクリエイションを起こすのではなく,クリエイションが差異を生むのだ。

番組のなかの佐藤氏や竹村氏を見ていると,彼らはひたすら自分の欲するものを追求し,同時にそれが多くの人々が欲するものだと確信していることが伝わってくる。「クリエイティブ経済」というものがあるとしたら,企業が生き残るための競争戦略などよりも,「こんなものを作りたい」「それこそ欲しかったものだ」という,企業人と顧客の本源的欲求に応えられるかどうかが重要になる。