Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

トレンドは冷えた「神の雫」

2018-05-15 | 試飲百景
五月の試飲会を終えた。日曜日も天候も悪く出掛けてつまらないワインを口にする意欲は無かった。金曜日の講話について纏めておかないと忘れて仕舞う。大切なことは書き留めて身に付けないと何度試飲していても経験値が上がらない。そのような人は目前の下らない情報誌に踊らされてトレンドを追うだけの大衆市場の頭数となるだけだ。通への道からは程遠い。習うより慣れろ、数より質、手当たり次第よりも先ず頭を使え、どのような分野にも通じるのではなかろうか。一生を掛けても到達しないような遠い道は遥かに延びる。無駄なことはしないに限る。

さて5月の試飲の二つ目の山はその講話の内容だった。数十人のお馴染みの檀家さんが遠くはチューリッヒなどから集った中で開かれた。最初のグラスはロゼで、色が充分についているシュペートブルグンダーとなっている。

二つ目は現行のグーツリースリングで、如何に2016年は早めに収穫が始まり、一月早く10月4日には全てが終わっていた。それだけ早く開花して推移した反面、所謂「アイスケーニゲン」と呼ばれる「クリストの昇天」までに遣ってくる霜被害に見舞われた。つまり早く開花していればその分被害が大きく、多くの葡萄がやられた。そこで残った葡萄とそこから発芽した葡萄の二種類の収穫がなされたことになる。つまり収穫も二段階になり、その成長も全く異なり、幹の上部と下部の二種類の収穫となった。これだけを聞けば農協さんやいい加減な大手の醸造所の機械摘みのワインの出来上がりの程度が知れよう。

だからワインの味も二種類のミネラルと酸が混じる感じが下位のこうしたベーシックなワインの特徴となっている。それこそが2015年の完熟と2016年の葉緑素の多いクラシックなリースリング年との中間となっている。その結果を良しとするとか、どう思うかは意見の分れるところだが、少なくともレープホルツの残糖を落としたリースリングにおいては最初から馴染みやすい売れる年となっただろう。未だに2016年が売り切れていないのと対照的だ。

ありがたやありがたや。こうしたお話しは、高等専門学校に通っていてもどこにも書いていないと思う、とても具体的なことである。つまり、ベーシックなワインで量が出るから選別は出来ないので、この二種類の葡萄が混ざっているという事になる。そのお陰で、15年の様に分厚くも無く、16年の様に酸が前面に出ることも無い。中庸なのだ。勿論バイヤーとしてもとても需要な情報で、通常は霜被害で量よりも質とか程度で終わる知識がここでは傾向までをグラスに味わえることになる。農民と同じように愛飲家はこうして大きな経験を積み重ねる。酸が6.7gであるから、ほとんど残っていない糖に比較すると結構こなれていることになる。要するに薄っぺらくないので売れ筋だと思う。

三つ目はブラインドで、黄色い液体が出てきたが、心配しないでくれと、つまり当時の単純な作りでありながら今でも酸が効いていて、熟成臭が抜ければ食事に合しても悪くないとなる。要するに二番目の経年変化はこれよりも優れていてという対象年度の一つとして敢えて出している。2002年はモーゼル流域でも面白い年度で、地元でもクリーミーな酸が楽しめた年度だ。

四つ目は、貝殻石灰質の「フォムムッショエルカルク」で、黄色い果実や「黄色い」というのがまさしく経年変化で現れる石灰質リースリングの特徴だ。くわばらくわばら、早めに飲み干すか、石灰は避けた方がリースリング愛好家には精神健康上好ましい。

五つ目は、もう一つの土壌からのリースリングであるが、再びブラインドで、少し古いがそれ程ではない。つまり2017年と比較対象にされたのは2012年のつまりフランケンヴァイラ―のリースリングだ。その特徴は所謂赤シーファー土壌と共通点のある「フォムロートリーゲンデン」のそれとなるので、同じようにスパイシーとなる。それは土地の色目の赤が示すように鉄分が多く、その味質となる。面白いのはリースリングにおける強い土壌の影響は其れこそその根が深く長く伸びる傾向からとしていて、これは単刀直入な理由付けであって分かり易い。要するにリースリングほど根の伸びる葡萄は少ないのだろう。それならば崖っぷちや斜面に育つ葡萄は同じ傾向ではなかろうか?

六つ目は、それの現行もので、PH値が高く、燻製っぽいニュアンスが特徴だ。比較対象に2009年の上位の「フォムロートリーゲンデン」が七つ目、つまり更にスパイシーでコクがある。だから若い時には躊躇わずデキャンタ―白となる。八つ目に、現行の「フォムロートリーゲンデン」とここまで何時もの進み方であるが、九つ目に最後の山があった。2016年から始めて密かなプロジェクトとしていたレープホルツの「甘口リースリング」だ。アルコール8%で、なんと10gの酸に50gを超える残糖。専門家に飲ましても恐らく残糖15gだろうと答えると思うと語る、その通り全く甘くないのである。まさしく、先日ホッホハイムで試飲したドイツ最高の甘口醸造所デーンノッフのカビネットと同じラインである。

まさかドイツで最も辛口のレープホルツ醸造所が甘口のカビネットで勝負するなんて誰が想像しただろうか?それも残糖50g以上である。当然のことながら香味豊かなロートリーゲンデス土壌つまり赤シーファーのモーゼルなどの土壌と殆ど一緒である。微炭酸が綺麗に落ちて静かなリースリング、そして喉に引っ掛からない残糖。後でレープホルツ氏に直接誉めたが天晴なアイデアだ。

五月試飲の一つ目のハイライトはデーノッフ醸造所の2017年物で、その辛口と甘口のクールさに感動したが、そのクールさには欠けるもののシャンペンの様にぐっと冷やしてテラスで楽しめる純天然飲料リースリング。これは完全にトレンドになる。涼しげな質の高い甘口が醸造される可能性が出てきたのは、辛口におけるその栽培の清潔さと貴腐の無いカビネットを綺麗に糖を残しながらの醸造技術にほかならない。嘗ての様な安直なカビネットではなく、ここ数年のライトなカビネットではない本格的な甘口カビネット、これは数年後には味の複雑さでは勝負にならないシャンペン以上に価値が出る可能性があると思う。その素材の良質さと醸造技術の清潔さがあるからだ。まさしく神の雫の旨味である。勿論旨味のある土壌からしか醸造されない。のど越しが悪いワインは飲まない、だから甘口のワインは買ったことが無い。しかし、デーノッフの涼しさは一度バルコンで冷やして飲んでみようと思った。食事も合せてみたい。如何にその甘みが今までと違うか、それが言いたい。



参照:
二日間の試飲の旅 2018-05-08 | 試飲百景
土産になる高品質甘口ワイン 2016-05-30 | 試飲百景
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