Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ワイン醸造蔵での問答

2004-12-26 | ワイン
風邪熱に震えつつ小雪舞う中を、約束通り醸造蔵へ向った。ブルーの作業着に身を包んだマイスターは、厚いコートに襟巻きをして厚着をした私をケルターハウスへと案内した。摘み取られた葡萄は全てここに集められ、大抵は其の日の内にゴムチューブで押さえつけられて茎と種が遠心分離されてジュースが抽出される。赤ワインの葡萄はこれに反して、縦長のステンレス樽の中でゆっくりと上下に攪拌される。この段階において、マイスターは出来うる限り自然の麹を使う選択を迫られる。糖比重などを吟味しながらヴィンテージの方針がだんだん定まってくる。こうして発酵が始まる。更にこのジュースを検査のみならず試飲等して、最終的ワインのイメージをさらに具体化していく。実際、カビの問題や酸の組成が舌で分析される。特にアロマになると熟練の鼻で判断するしかない。この時点で修正の必要があるか、それとも出来る限り手を加えないワインが出来るかが判断される。炭酸の挿入などで最小の修正をして、木樽での熟成期の新鮮味喪失を予め補填する。この時点までの分析と判断でワインの質と品格が可也決ってしまいそうである。リースリングワインは木樽に移されて、これから壁を通して呼吸しながらの熟成が木樽の中で始まる。密封された樽の上に発酵管というガラスのループがつけられる。そこからガスが抜けるのでループの溜まり水がプクプクと地下蔵内の何処彼処から音を立てる。そしてそれぞれの樽にスロートを差込み熟成が絶えず監視され、同時に最新システムによって樽内の温度が一定に保たれる。こうして亜硫酸の注入(元来は樽を硫黄で燻らした)時期や量などが慎重に決定され、フィルターリングされて、更に樽の中で来るべき瓶詰めの時期までゆっくりと寝かされる。問答を終え地下蔵から上がってくると、そこは薄っすらと雪が広いスクウェアーに、室内の明かりを跳ね返して白く光っていた。今冬初めての光景であった。

一連の作業や詳細は、醸造の基礎知識として然るべき資料にある通りだ。唯この問答で知り得た事は、理論に対する実地だけでなく、幾度の岐路に直面した時の判断の様子とその決断である。その判断こそが、太陽の恩恵を受けたこの大地の収穫を自然の黄金の蜜の泉へと変えるのである。

必要なのは創造力である。正解は何処にも存在しない。この若いマイスターが四代目の親方から学んでいる具体的な詳細は知る由もないが、その片鱗を感じる事が出来た。それは家訓のように代々と受け渡される虎の巻でなく口移しで伝えられた何かである。彼は、彼の仕事を奇しくも「芸術のようなもの」だといった。

人間の数多の活動はすべて同じである。理論があり経験則があり、そして最後は自らで判断していかなければならない。論理と経験があっても未だ何も起こらない。そして其の決断の過程と方向に少なからず興味を引かれる。

我々の創造力も光の如くその留まる所を知らないと、クリスマス二日目の今日思うのである。
コメント (2)
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