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京都さんぽ11 ~待庵~

2010-03-22 17:26:19 | 京都さんぽ

待庵。その小さな茶室を訪れたときは、しとしとと春先の雨が降っていました。千利休がつくったとされる、現存する唯一の茶室。二畳台目のその小さな空間は、これ以上ない美しい緊張感をもつ極小空間として、洋の東西を問わず多くの書籍で紹介されてきました。

妙喜庵という寺の中を案内されて書院のなかを少し歩をすすめると、そこにはすぐに写真で見慣れた光景がありました。書院にはり付くようにして、小さな箱がポンと地面に置かれているような、そんな 印象でした。

雨に濡れる緑。

寡黙な土壁。

小さく開けられた下地窓。

すべての事物はあるがままに、でも、暗示的に。

それらを確かめるようにして一歩一歩すすむたびに、注意深く守られた「奥」に入っていくような、そんな印象がありました。

土門拳が、待庵を撮影したときのことをエッセイに書いています。大柄な土門が壁を傷つけないようにソロリ、ソローリと入っていくのはとても気をつかったけれど、入って床の間をずっと見ていると、無限な宇宙的な広がりを、確かに感じた、と。

ただの見学者である僕には入室は許されなかったけれど、にじり口から中をのぞくことはできました。壁で囲まれた、ほの暗い室内。所々に開けられた下地窓からの光は、人の所作と心の機微を映したように、吟味された位置に配されています。しとしとと降る雨の音が室内にもはいりこみ、内と外の境界を、意識のなかで溶解していきます。薄い土壁に囲まれた小さな世界は、決して外の世界を拒絶するのではなく、外の気配をやんわりと室内に滲ませながら、平穏な静けさを秘めていました。

簡素で、慎ましやかで、秘めやかな奥をつくること。僕が住宅設計の仕事の上でも大切にしたいと思っていることは、待庵での記憶が大きく影響しているような気がします。

中で撮影は許されないので、受付でモノクロの写真を購入しました。下はその一枚。写真がモノクロだからこそ、記憶のなかで、緑や光の色、そして雨の音が蘇ります。

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