今年は東京でもよく雪が降りますね。子供の頃は無邪気に喜んでいたけれど、大人になって仕事をし始めると、いろいろなことが気にかかるものです。
それでも、雪化粧された風景はいつもと違って新鮮です。そんな気持ちとともに、なぜだか、師匠の村田靖夫さんの事務所に勤めていた頃のことを思い出します。
村田さんは、時折スタッフをランチに誘ってくださいました。常日頃、鬼のような形相でスタッフに相対し仕事をされていたから、スタッフにもちょっとした息抜きが必要だろうと思われていたのかもしれません。村田さんにランチに連れて行ってもらうと、すべて村田さんが支払ってくださいました。スタッフ6人がここぞ!とばかりに食べますから、ケッコウな金額になったのではないかと思うのですが・・・。その行き帰りの道は、ちょっとした課外授業でした。道端の木や草花を指して、なんというナマエかわかるか?とか、花が咲く季節がいつか、など、質問をされては、たいてい答えられない我々に、ヤレヤレという顔をしながら教えてくださいました。
雪が降った日。アスファルトの部分と、土の部分で、雪の解ける速度が違うのはなぜか。それを建築の断熱の仕組みの話にまで関係づけながら、いろいろ話してくださいました。
村田さんは、芸術家肌の建築家ではありませんでした。エンジニア肌で、厳密で職人的な設計の仕事を好まれました。ですから、感覚的な話をするとたいていは怒られました(笑)。
一昨日、「自由が丘の家」の、黒い漆喰の壁を背景に、白い雪が降りしきっていました。できあがって10年が経ち、黒い灰墨が削げて味がでてきた壁。雪が地面を覆い、モノクロームの世界になります。そういったものを、村田さんだったらどのように表現するのだろうか。