桜坂の家.4 ~ガーゴイル~

2007-01-25 21:34:52 | 桜坂の家

ガーゴイルとは、「雨落とし」つまり樋の彫刻のことです。パリのノートルダム寺院には怪獣型のガーゴイルがあり、そこからパリの街を遠望するシーンは有名です。

彫刻というわけにはいきませんが、住宅でも「雨落とし」をおもしろくすることはできないだろうか、とよく考えます。写真のイラストは、僕が学生時代に「自由が丘の家」の習作のためにデザインしたものです。錆びた鉄のガーゴイルから幾本かの樋が伸び、下に置かれたコンクリートの水槽の中に雨が落ちる。水槽には色ガラスが嵌め込まれており、色ガラスを通して、溜まった雨水がゆらゆら揺らめいているのが見える・・・というようなことをイメージしていたものでした。実際にこれをつくると、あらゆる面で問題がありそうですが、そんな遊び心は大切にしたいと思っています。

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「桜坂の家」では、雨水の流れをデザインに取り入れました。樋をつたって流れてきた雨水は、下部にしつらえられたコンクリートの花壇に流れます。道路に面したこの花壇には、住まい手によって季節に応じた草花が植えられています。天の恵みをうけて元気にそだってくれよ、と少々おおげさなことを思いながら、街並みへのささやかな表情にしました。

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桜坂の家.3~桜坂冬ざれ~

2006-10-14 16:53:37 | 桜坂の家

061014_3 桜坂の家の敷地にはじめて訪れたのは、ある冬ざれの一日でした。史跡「桜坂」は東急線の沼部駅にあります。駅を降りると、駅前に人通りは少なく、静かで穏やか、そしてどこか厳かな雰囲気さえ感ぜられました。理由はすぐにわかりました。通常、都会の駅前というのは、店が建ち並び多色彩な舗装や街灯が続いているものですが、この街は一角を寺がしめていました。その外周部は左官塗りの壁が続き、その壁に沿って、用水路が流れています。この用水路は江戸時代に灌漑用水としてつくられたもので「六郷用水」と名付けられています。長い時間を重ねてきた風格のようなものが、その雰囲気のなかに感ぜられました。

過去のものを残していくことは、功利主義の世の中ではなかなか難しいものです。しかしながらこの街にとって、この穏やかで厳かな雰囲気はおそらくずっと続いてきたものであるし、これからも存続させていくべきものだと、このときにつよく思ったのです。

左官塗りの壁に映り込む、樹木の影。その凛とした雰囲気は、春、やまももをはじめ花が咲きみだれ華やかさに包まれます。界隈の桜坂の桜とともに、一年に一度、道行く人々を楽しませてくれるのです。そうして一年、また一年と、ゆっくりと時間を重ねてゆく。

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桜坂の家の外観には、そんなイメージを託したいと思いました。穏やかな左官塗りの壁。その前に植えられた花木。季節ごとに、住まい手だけでなく道行く人々にも楽しんでもらえるような街角の一角をかたちづくりたいと思ったのです。この界隈にずっとあり続けてきた穏やかで厳かな雰囲気が、このちいさな街角にも宿り続けることを願いつつ・・・。

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桜坂の家.2~濡れ縁 Ⅱ~

2006-09-27 20:47:54 | 桜坂の家

濡れ縁は、ちいさな中庭に面しています。傍らに植えられているのは ブルーベリー。実のなる植栽は、生活のなかにちょっとした楽しみをもたらしてくれます。

中庭をはさんでダイニングがあります。椅子座と床座。それぞれの場所の使い勝手に応じて、中庭への関わりあいかたも変わります。ダイニングの前は、コンクリートで仕上げられたテラス、和室の前は濡れ縁に、といった具合です。おかげで、ちいさな中庭が、いろいろな表情を見せてくれるかのようです。060927_1

濡れ縁は、ひとりでぼぉっとするための場所。少し奥まっているので、考え事でもするのにちょうどよい場所になりました。古今東西、中庭というのは考え事をするための場所として人々に大切にされてきました。この桜坂の家の中庭は四坪に満たない 都会のなかの私的な空間。落ち着く場所というのは 意外にちいさくてよいものです。そこに面する濡れ縁は、ビールを片手に座ったり、寝転がったりするのにちょうどよい寸法に設計されています。

蝉にかわってすずむしの鳴き声が、中庭にしみいるようになりました。思いは深く、ふかく。

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桜坂の家.1~濡れ縁 Ⅰ~

2006-09-23 22:32:53 | 桜坂の家

桜坂の家ができてから、道行く人からは、「茶室がある家だ」と噂が流れていたようです。道から垣間見える、左官壁に開けられた濡れ縁が、茶室のにじり口のようなイメージで見えるから、という話も聞きました。

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桜坂界隈は、古色ある魅力的な雰囲気をもっています。街並みを覆う建物の多くは現代住宅に建て変わり、新建材を多用した外観が多いので、昔ながらの光景がひろがっているというわけではありません。それでも不思議なもので、ずっと昔から流れてきた時間の厚みが、なにかこう、体の奥深いところで直感的に感得できるような気がします。それは僕自身だけの気持ちであるというよりも、この場所に訪れた多くの人が、同じような感想をもつようです。

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そんな街並みの雰囲気が生活のなかでも感ぜられるように、この住宅は、街との距離感を慎重に図りながら設計されました。濡れ縁は、道路のそばに位置していながら、少し囲い込まれた配置と、植栽によって、街と近からず遠からずの落ち着いた場所になりました。

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