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桜坂の家.6 ~1年点検~

2007-06-21 22:16:16 | 桜坂の家

桜坂の家も竣工から1年が経ち、先日、1年点検を行いました。工務店の監督さんと一緒に、じっくりと見て廻りました。結果、数箇所にペンキの剥げ落ちが見られたので、その手直し。玄関のドアチェックの調整など。細かな部分を何点か手を入れることになりました。手作りでつくられた家は、こうして少しずつ手をいれながらずっと住み続けていくもの。

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久々に眺める桜坂の家。オマエ、すこし大きくなったんじゃないか?どこか、こんもりと山のような外観。植えてから1年経った植木はだんだん大きくなってきました。建物と緑の調和。その植木の間からダイニングテーブルのペンダントライトが垣間見え、穏やかな生活の様子がしのばれます。

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道路に面してしつらえられたコンクリート製の雨樋受けの花壇には、賑やかに花が植わっています。小さな花壇ですが、その中だけを思いきっていろいろな色の花を植えるのが、とても楽しいのだそうです。そんな楽しみがあるのも、建物の表情が簡素で穏やかだからかもしれません。

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帰り道、桜坂のそばを流れる六郷用水を通りながら駅へ。静かな木漏れ日のなかを歩んでいくと、桜坂の家に求めた住まいの在り方が、どんどんと思い出されてきました。古びた街の記憶。自分が生まれる以前からこの街にあり続けた、静かで穏やかな雰囲気に寄り添うような佇まいを、桜坂の家に求めたのでした。身の丈にあったちょうどよい大きさの、穏やかで素朴な質感をもち、そして内部では、きりりと引き締まった日本的な空間が支配するような。

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設計をはじめる際、若い住まい手から最初に言われた要望は、「ワインのように年月と共に家も住まい手も味わいを増していく、そんなあり方を求めたい」

この家はそんな住まい手の気持ちに対しても、そして桜坂の「地霊」に対しても、僕なりの回答としてデザインしたものです。

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桜坂の家 5 ~ぼうず面の机~

2007-04-09 21:35:39 | 桜坂の家

こんな話を聞いたことがありました。

京都の古い町屋のなかには、それぞれの部屋を誰が使用するかによって、柱の太さや造り方を変えているものがあるそうです。たとえば、主人の部屋は柱も太く力強い雰囲気に、そして、女性が使用する部屋では、柱の角を大きく面を落として華奢に見せていた、とのこと。一目みただけでは同じように見えても、その部屋が何なのかを見事に表している。空間づくりの上質な遊びだと思います。そうした繊細な感性が、昔の日本の家にはあったということでしょう。

桜坂の家の主寝室には、窓際に鏡台がしつらえてあります。鏡台といっても、板一枚だけの、とても簡素なもの。厚さ3センチのこの板は、大工さんに頼んで小口をつるりと丸く仕上げてもらいました。さきほどの話を思い起こして、女性が使う場所としての柔らかい雰囲気を、この簡素なしつらえにも宿したいと思ったのでした。

一方で、この家の主人の書斎机は、大きな欅の一枚板。荒々しい男性的な風合いが魅力です。どちらの机にも、障子を通した柔らかい白い光に満たされた空間を用意しました。

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桜坂の家.4 ~ガーゴイル~

2007-01-25 21:34:52 | 桜坂の家

ガーゴイルとは、「雨落とし」つまり樋の彫刻のことです。パリのノートルダム寺院には怪獣型のガーゴイルがあり、そこからパリの街を遠望するシーンは有名です。

彫刻というわけにはいきませんが、住宅でも「雨落とし」をおもしろくすることはできないだろうか、とよく考えます。写真のイラストは、僕が学生時代に「自由が丘の家」の習作のためにデザインしたものです。錆びた鉄のガーゴイルから幾本かの樋が伸び、下に置かれたコンクリートの水槽の中に雨が落ちる。水槽には色ガラスが嵌め込まれており、色ガラスを通して、溜まった雨水がゆらゆら揺らめいているのが見える・・・というようなことをイメージしていたものでした。実際にこれをつくると、あらゆる面で問題がありそうですが、そんな遊び心は大切にしたいと思っています。

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「桜坂の家」では、雨水の流れをデザインに取り入れました。樋をつたって流れてきた雨水は、下部にしつらえられたコンクリートの花壇に流れます。道路に面したこの花壇には、住まい手によって季節に応じた草花が植えられています。天の恵みをうけて元気にそだってくれよ、と少々おおげさなことを思いながら、街並みへのささやかな表情にしました。

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桜坂の家.3~桜坂冬ざれ~

2006-10-14 16:53:37 | 桜坂の家

061014_3 桜坂の家の敷地にはじめて訪れたのは、ある冬ざれの一日でした。史跡「桜坂」は東急線の沼部駅にあります。駅を降りると、駅前に人通りは少なく、静かで穏やか、そしてどこか厳かな雰囲気さえ感ぜられました。理由はすぐにわかりました。通常、都会の駅前というのは、店が建ち並び多色彩な舗装や街灯が続いているものですが、この街は一角を寺がしめていました。その外周部は左官塗りの壁が続き、その壁に沿って、用水路が流れています。この用水路は江戸時代に灌漑用水としてつくられたもので「六郷用水」と名付けられています。長い時間を重ねてきた風格のようなものが、その雰囲気のなかに感ぜられました。

過去のものを残していくことは、功利主義の世の中ではなかなか難しいものです。しかしながらこの街にとって、この穏やかで厳かな雰囲気はおそらくずっと続いてきたものであるし、これからも存続させていくべきものだと、このときにつよく思ったのです。

左官塗りの壁に映り込む、樹木の影。その凛とした雰囲気は、春、やまももをはじめ花が咲きみだれ華やかさに包まれます。界隈の桜坂の桜とともに、一年に一度、道行く人々を楽しませてくれるのです。そうして一年、また一年と、ゆっくりと時間を重ねてゆく。

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桜坂の家の外観には、そんなイメージを託したいと思いました。穏やかな左官塗りの壁。その前に植えられた花木。季節ごとに、住まい手だけでなく道行く人々にも楽しんでもらえるような街角の一角をかたちづくりたいと思ったのです。この界隈にずっとあり続けてきた穏やかで厳かな雰囲気が、このちいさな街角にも宿り続けることを願いつつ・・・。

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桜坂の家.2~濡れ縁 Ⅱ~

2006-09-27 20:47:54 | 桜坂の家

濡れ縁は、ちいさな中庭に面しています。傍らに植えられているのは ブルーベリー。実のなる植栽は、生活のなかにちょっとした楽しみをもたらしてくれます。

中庭をはさんでダイニングがあります。椅子座と床座。それぞれの場所の使い勝手に応じて、中庭への関わりあいかたも変わります。ダイニングの前は、コンクリートで仕上げられたテラス、和室の前は濡れ縁に、といった具合です。おかげで、ちいさな中庭が、いろいろな表情を見せてくれるかのようです。060927_1

濡れ縁は、ひとりでぼぉっとするための場所。少し奥まっているので、考え事でもするのにちょうどよい場所になりました。古今東西、中庭というのは考え事をするための場所として人々に大切にされてきました。この桜坂の家の中庭は四坪に満たない 都会のなかの私的な空間。落ち着く場所というのは 意外にちいさくてよいものです。そこに面する濡れ縁は、ビールを片手に座ったり、寝転がったりするのにちょうどよい寸法に設計されています。

蝉にかわってすずむしの鳴き声が、中庭にしみいるようになりました。思いは深く、ふかく。

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