かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

多摩市映画祭「第10回TAMA NEW WEVE」グランプリ

2009-11-23 05:27:07 | 気まぐれな日々
 はるか彼方のカンヌやヴェネツィアやベルリンを夢みてか、日本の各地にも映画祭が町興しとして立ち上げられて久しい。しかし、近年の不況も相まって、地方自治体や協賛企業の撤退・縮小などで、映画祭も寂しくなってきた。
 何事にも言えることだが、続けること、それだけが力である。それを支えることができるのは情熱である。
 多摩市の映画好きの市民スタッフの力で続けてきた映画祭も19回目を迎えた。その「TAMA CINEMA FORUM」映画祭が、11月21日から多摩市の各会場(パルテノン多摩、ベルブホール、ヴィータホール)で始まった。
 そして、新人監督の発掘・登場を目指して行われる「コンペティション」も、10回目を迎えた。
 今年は、応募105作品の中から最終審査に6作品がノミネートされた。
 その最終審査・上映会が、11月22日、多摩ヴィータホール(聖蹟桜ヶ丘)で行われた。
 僕は、去年に続き一般審査員として参加した。

 未発表の、そしてこれから映画館などで上映されるかどうか分からない作品が観られるのは嬉しい。見ていて、さらに見終わると、往々にして切なくなる。
 それは、若い瑞々しい感性から来るものだけではなく、その映画を制作した人たちのいまだ吉凶定かならぬ人生を偲ばせるからだ。
 かつて、僕は文芸新人賞(小説)の原稿下読み選考をしたことがある。全国から送られてきた山のように積まれた原稿を読んで、推薦もしくはふるい落しの作業をするわけだが、それは新鮮な原稿を読むという胸打つ歓びと同時に、その原稿を書いた人の人知れぬ努力を思うと、しかもそれが日の目を見ない努力だと思うと、切なくなるのだった。時に素晴らしい才能を感じる原稿があっても、最終受賞作は、才能とは別の話題作になるのが殆どだったからだ。
 小説も映画も、それが日の目を見るかどうか分からないものに、情熱と労力を傾けるという意味では同じである。とはいっても、その経過に価値を見つけたい。
 願わくば、日の目を見らんことを願って。

 *

 僕にとっては、21日多摩映画祭初日に上映された、園子温監督の「愛のむきだし」(約4時間)を観た翌日(22日)の、「コンペティション」である。朝の10時半から夜の6時近くまで6作品の連続上映(途中休憩あり)である。
 その後、監督とゲスト・コメンテーターのトーク、審査発表と授賞式が終わるのが夜7時半であった。

 上映順に簡単な感想をあげてみよう。

○「 mon amour, mon amour 」(監督=村上元太)
 この映画は、タイトルがいい。単純だが、フランスかぶれの僕好みである。セルジュ・ゲンスブールかミッシェル・ポルナレフのフレンチ・ポップスを軽くした歌の一節のようだ。
 映画の内容は、同棲しているカップルのもとへ、女性の友人が転がり込んでくる。すぐに帰るつもりのはず友人の女が、いつの間にか長い滞在になり、男と女の間に微妙な風が吹くというもの。三角関係になるというのではなく、何も起こらないもの足りないままで終わる、フランス的でない内容。
 この映画は第1幕であり、第2幕があるはずである。そして、そちらの方が興味深い

○「INTERSPASE」(監督=遠竹真寛)
 大学受験の予備校に通う主人公は、親は弁護士になるのを期待し、本人は宇宙飛行士になる目標で勉強をしているが、成績は伸びない。どちらにしろ、成績を伸ばさないといけない。ところが、急に成績がトップになった友人に疑問を抱き、その秘密を聞く。それは、謎のインターネットサイトにより、受験内容を自分にダウンロードするというものだった。しかし、それは脳の記憶が引き替えというリスクを伴うものだった。
 大学卒業制作作品で、アイディアが面白く、才能の片鱗が窺える。

○「ヘビと映子と佐藤のこと」(監督=新井哲)
 顔にヘビの形の跡が残る女と、女の友だちの映子と、女にヘビの跡をつけた張本人ともいえる、女が好きだった男佐藤の関係である。
 2人の女のやりとりで話は進み、どう展開するのか興味を持たせるのだが、ラストがマンガチックに終わった感が否めない。どう終わらせたらいいのか?

○「東京」(監督=鈴木健)
 東京はドラマチックな街だ。その東京を舞台に、様々な人生が描かれていく。魅力的な題材で、三谷幸喜の映画のように広がり、さらにそれが終結に向かわんとするが、消化不良だった感がする。スケールの大きさを窺わせる。

○「最低」(監督=今泉力也)
 女のもとに、同棲相手の男の浮気現場が映されているというDVDが届く。それは、彼女のストーカーがかつて映したもので、そのDVDを女は自分で見られなくて妹に観てほしいと頼む。彼女の同棲男には確かに浮気相手がいて、男は同棲している女と、浮気している女の2人から、追求される羽目になる。
 男のいい加減さが、深刻な話を軽妙にして味のある作品になっている。

○「ロックアウト」(監督=高橋康進)
 工事現場で働く男は、不況の波で解雇され職を失う。一部記憶を失った男は、車を走らせる。トイレに立ち寄ったスーパーで、間違えて男の車の助手席に乗っている少年を乗せて、夜の街を車を走らせることになる。
 車を走らせる途中途中で、男は暴力的な自分を発見し、それが映像としてフィードバックされる。現代社会に潜む暴力と恐怖が、現実と想像(潜在意識)の中で映しだされていく。
 完成度が高く、制作者の思い込みが強く伝わってくる映画であった。

 グランプリは、人気の高かった「最低」。
 特別賞に、完成度の高い「ロックアウト」。
 ベスト男優賞は、「最低」の芹澤興人
 ベスト女優賞は、「ヘビと映子と佐藤のこと」の小枝。

 映画にどっぷり浸かった日々は、映画に情熱をかける人たちの、熱くも瑞々しい思いが伝わってきたのだった。
 願わくば、情熱が途切れることがないように。

 TAMA映画フォーラム http://www.tamaeiga.org/

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