コロナによるパンデミックがいまだ収まらないのに加え、今年2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり戦争が勃発した。
この戦争は当初の大方の予想とは違い、長期化の様相を呈している。
そんな時、新聞の書籍広告で「第三次世界大戦はもう始まっている」(文春新書、訳:大野舞)との見出しが目に入った。センセーショナルなタイトルだ。
著者は、フランスの歴史人口学者、家族人類学者であるエマニュエル・トッド。彼の最初の書である「最後の転落」(1976年)でのソ連崩壊をはじめ、トランプ勝利、英国EU離脱など、幾多の〝予言"をした人である。
本書は、ロシアのウクライナ侵攻の戦争はなぜ始まったのか、その背景・根底にあるのは何かを著者独自の説で論じている。
トッドは、「西側メディアから情報を得ているヨーロッパ人」という立場から話をしているとしたうえで、国際政治学者ジョン・ミアシャイマーの指摘に基づいて、「本来、簡単に避けられたウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなく米国とNATOにある」と主張する。
そして、ウクライナは正式にはNATOに加盟していないが事実上NATO加盟国だったとし、ウクライナを武装化したのは米国と英国だとする。
ウクライナ問題は、元来はソ連崩壊後の国境の修正という「ローカルな問題」であったのだが、「グローバルな問題」でもあるという。それは、地政学的思考者ズビグネフ・ブレジンスキーの言葉を借りて「ウクライナなしではロシアは帝国になれない」という説に基づき、ロシアの目的行動を阻止するために、アメリカはウクライナを武装援助したという。
行きつくところ、ロシアの弱体化を狙った超大国を堅持したいアメリカの思惑と狙いということである。
著者は、そこにおけるイギリス、フランス、ドイツの立場と思惑と行動も鋭く追及している。
*世界を家族構造で見てみると
「西側メディアから情報を得ているアジア人」としては、この戦争は「民主主義陣営VS専制主義陣営」と捉えがちで、多くのマスコミもこの見方だろう。しかし、著者のトッドは、この戦争は政治学などよりも深い領域から検討すべきだともいう。
それはどういうことかというと、家族構造からみる人類学的考察を引き合いに出し、「この戦争は父権制システムと核家族の双権制システムの対立」という見方である。
彼は、「人種」「言語」「宗教」以上にその社会の在り方を根底から規定しているのは、「家族」であり、「家族構造」と「政治経済体制」(イデオロギー)は一致する、という。
そのことに気づいた動機として、「共産主義革命は、プロレタリアート(労働者階級)の主導により成し遂げられると一般に考えられてきましたが、実は、プロレタリアートを有する先進工業国では一度も起きていません。いずれの共産主義革命も、本格的に工業化する以前の「外婚制共同体家族」の地域で起きているのです」と論調する。
トッドは自身の著書「世界の多様性」で、世界の家族型を以下のように示している。
「絶対核家族」=子供は成人すると独立する。親子は独立的であり、兄弟の平等に無関心である。イングランド、オランダ、デンマーク、イングランド系のアメリカ合衆国、カナダ (ケベック州を除く)、オーストラリアなど。
「平等主義核家族」=子供は成人すると独立する。親子は独立的であり、兄弟は平等である。フランス北部、スペイン中南部、ポルトガル北東部、ギリシャ、イタリア南部、ポーランド、ルーマニア、ラテンアメリカなど。
「直系家族」=子供のうち一人(一般に長男)は親元に残る。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。ドイツ、スウェーデン、オーストリア、スイス、ベルギー、フランス南部、スコットランド、ウェールズ南部、アイルランド、カナダ(ケベック州)、日本、朝鮮半島、台湾、ユダヤ人社会など。
「外婚制共同体家族」=息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親は子に対し権威的であり、兄弟は平等である。いとこ婚は禁止されるか少ない。ロシア、フィンランド、旧ユーゴスラビア、ブルガリア、ハンガリー、モンゴル、中国、インド北部、ベトナム、キューバなど。
「内婚制共同体家族 」=息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親の権威は形式的であり、兄弟は平等である。トルコなどの西アジア、中央アジア、北アフリカなど。
その他、「非対称共同体家族」、「アノミー的家族」、「アフリカ・システム」などをあげている。
このように世界を見てみると、違った世界地図が見えてくる。
著者トッドは、このロシアによるウクライナ侵攻の戦争勃発を契機に揺れ動く世界各国の行動状勢に対して、「私はこの戦争に、まず歴史家として、そして人類学者として向きあっているが、いわば「地政=精神分析学者」として語る必要に迫られている」と述べている。
「第三次世界大戦はもう始まっている」は、現在起こっている進行形の戦争の行く末の"予言"の書と、読み取ることもできよう。
この戦争は当初の大方の予想とは違い、長期化の様相を呈している。
そんな時、新聞の書籍広告で「第三次世界大戦はもう始まっている」(文春新書、訳:大野舞)との見出しが目に入った。センセーショナルなタイトルだ。
著者は、フランスの歴史人口学者、家族人類学者であるエマニュエル・トッド。彼の最初の書である「最後の転落」(1976年)でのソ連崩壊をはじめ、トランプ勝利、英国EU離脱など、幾多の〝予言"をした人である。
本書は、ロシアのウクライナ侵攻の戦争はなぜ始まったのか、その背景・根底にあるのは何かを著者独自の説で論じている。
トッドは、「西側メディアから情報を得ているヨーロッパ人」という立場から話をしているとしたうえで、国際政治学者ジョン・ミアシャイマーの指摘に基づいて、「本来、簡単に避けられたウクライナ戦争の原因と責任はプーチンではなく米国とNATOにある」と主張する。
そして、ウクライナは正式にはNATOに加盟していないが事実上NATO加盟国だったとし、ウクライナを武装化したのは米国と英国だとする。
ウクライナ問題は、元来はソ連崩壊後の国境の修正という「ローカルな問題」であったのだが、「グローバルな問題」でもあるという。それは、地政学的思考者ズビグネフ・ブレジンスキーの言葉を借りて「ウクライナなしではロシアは帝国になれない」という説に基づき、ロシアの目的行動を阻止するために、アメリカはウクライナを武装援助したという。
行きつくところ、ロシアの弱体化を狙った超大国を堅持したいアメリカの思惑と狙いということである。
著者は、そこにおけるイギリス、フランス、ドイツの立場と思惑と行動も鋭く追及している。
*世界を家族構造で見てみると
「西側メディアから情報を得ているアジア人」としては、この戦争は「民主主義陣営VS専制主義陣営」と捉えがちで、多くのマスコミもこの見方だろう。しかし、著者のトッドは、この戦争は政治学などよりも深い領域から検討すべきだともいう。
それはどういうことかというと、家族構造からみる人類学的考察を引き合いに出し、「この戦争は父権制システムと核家族の双権制システムの対立」という見方である。
彼は、「人種」「言語」「宗教」以上にその社会の在り方を根底から規定しているのは、「家族」であり、「家族構造」と「政治経済体制」(イデオロギー)は一致する、という。
そのことに気づいた動機として、「共産主義革命は、プロレタリアート(労働者階級)の主導により成し遂げられると一般に考えられてきましたが、実は、プロレタリアートを有する先進工業国では一度も起きていません。いずれの共産主義革命も、本格的に工業化する以前の「外婚制共同体家族」の地域で起きているのです」と論調する。
トッドは自身の著書「世界の多様性」で、世界の家族型を以下のように示している。
「絶対核家族」=子供は成人すると独立する。親子は独立的であり、兄弟の平等に無関心である。イングランド、オランダ、デンマーク、イングランド系のアメリカ合衆国、カナダ (ケベック州を除く)、オーストラリアなど。
「平等主義核家族」=子供は成人すると独立する。親子は独立的であり、兄弟は平等である。フランス北部、スペイン中南部、ポルトガル北東部、ギリシャ、イタリア南部、ポーランド、ルーマニア、ラテンアメリカなど。
「直系家族」=子供のうち一人(一般に長男)は親元に残る。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。ドイツ、スウェーデン、オーストリア、スイス、ベルギー、フランス南部、スコットランド、ウェールズ南部、アイルランド、カナダ(ケベック州)、日本、朝鮮半島、台湾、ユダヤ人社会など。
「外婚制共同体家族」=息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親は子に対し権威的であり、兄弟は平等である。いとこ婚は禁止されるか少ない。ロシア、フィンランド、旧ユーゴスラビア、ブルガリア、ハンガリー、モンゴル、中国、インド北部、ベトナム、キューバなど。
「内婚制共同体家族 」=息子はすべて親元に残り、大家族を作る。親の権威は形式的であり、兄弟は平等である。トルコなどの西アジア、中央アジア、北アフリカなど。
その他、「非対称共同体家族」、「アノミー的家族」、「アフリカ・システム」などをあげている。
このように世界を見てみると、違った世界地図が見えてくる。
著者トッドは、このロシアによるウクライナ侵攻の戦争勃発を契機に揺れ動く世界各国の行動状勢に対して、「私はこの戦争に、まず歴史家として、そして人類学者として向きあっているが、いわば「地政=精神分析学者」として語る必要に迫られている」と述べている。
「第三次世界大戦はもう始まっている」は、現在起こっている進行形の戦争の行く末の"予言"の書と、読み取ることもできよう。