かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

ゴジラの手? いや、いや、「亀の手」!

2024-07-30 20:34:28 | 気まぐれな日々
 ここのところ(2024年7月下旬)、日中は30度を超す暑い日が続く。日本も、どうやら亜熱帯地方になったかや?
 食事を作るのも面倒になるが、そうも言ってはいられない。ひとり身としては、たまに外食するが、毎日なにがしかの料理を習慣として作っている。もう修行のようである。
 生きるために食うのか、食うために生きるのか、わからなくなってきた。

 先日、行きつけのスーパーの魚売り場を物色しているときである。
 いつものごとくその日の魚やエビなどが並べてある棚に、見慣れない妙なものが置かれていた。それは、何気なく並んでいた。
 平然と、そこにある……
 私は足をとめた。うむ? これは、異様だ。
 まるで、ゴジラの小さな子どもの手だ。ゴツゴツした爪のようなものの下に、コモドドラゴンの鎧の手足のような脚(胴)?が伸びている。
 大きさは3~5㎝ぐらいで、もっと小さいのもそばにくっついている。それらが、いくつか詰まってパックに入っている。
 食いものとは思えないが、値段も貼ってあるので、ちゃんとした売り商品である。
 名前を見ると「亀の手」とある。
 長年魚売り場担当の顔なじみのおばさんに、「これは、亀の手?」と疑問符を投げかけてみた。
 すると、おばさんも「そうなのよ。売り場に出たのは初めてよ。私も初めてなの。これ、どうやって食べるの?」と、逆に訊かれてしまった。
 私も知るわけがない。
 すぐに携帯スマホで検索してみると、甲殻類の一種だとある。つまり、カニやエビの仲間だということだ。
 長年魚売り場を担当してきたおばさんが初めて見たというから珍品に違いない。これは、買って食べなければならない、とすぐに思った。
 愛知県産とあるから国内産である。値段を見ても安いではないか。100g=198円である。私は、1パック184g(税込393円)を買った。

 家に帰ってよく洗い、皿に並べた。どう見ても、食いものには見えない。(写真)
 釣りが好きで、食いもの、特に魚には目のない関西に住んでいる弟に電話して、この亀の手について訊いてみた。すると弟は、こともなげにこう言った。
 「亀の手は、時々食うよ。甲殻類だけど、タニシやホウジャ(佐賀県の方言でカワニナ)みたいなものだよ。海辺の浅瀬の岩にくっついているんだ。最近は、テトラポットにくっついていることもある。それを剥がして(採って)、帰って食べたりするよ」
 「こっち(関西)でも、スーパーで見たことないなあ。知っている人は知っているけど、料理屋でも出てこないね」
 肝心の、食べ方を訊いてみた。
 「俺は酒蒸しにするね。食うところはちょっとしかないんだが、ビールのつまみにいいんだ」

 私は家に日本酒は置いていないが、ずいぶん前に買った安いワインがあるのを思いだした(安くてもフランス産、腐ってもボルドーである)。
 ということで、ワイン蒸しにした。
 「カメノテのワイン蒸し」である。
 食べるときは、爪の下のコモドドラゴンの脚状のところを指で裂いて引っ張ると、クリーム色の細長い身が出てくる。カニの脚を折ると中から身が出てくるように。
 指でやるのが嫌だったら、小さなナイフで裂けばいい。出てきた身を啜(すす)るか、摘まんで口の中に入れる。
 プリッとした食感で、エビやカニというより、味は貝に近い。
 身は小さくて食べごたえはないが、酒飲みにはいい肴なのだろう。ワインにもいい(料理に使ったワインだが)。
 ワインに蒸す前に、オリーブオイルでまぶした方がよかったかもしれない。それにニンニク、ショウガなどを刻んだりしたらどうだったか。(次に食する機会があったときの課題だ)

 人生は経験のたまものだ。
 たまたまだが、ここで稀なゴジラの手を、もとい、亀の手を食べられたのは貴重な体験だった。

 調べてみると「亀の手」(カメノテ)は、スペインやポルトガルでは、海鮮料理によくでるとのことである。特にポルトガルでは「ペルセベス」として有名で、シーフードレストランには必ずといっていいほど置いてある、高級食材だという。
 イギリス在住で「ペルセベス」(カメノテ)を食べにわざわざポルトガルのリスボンに行った女性のレポート(2023年投稿)によると、カメノテの最高級品だと1㎏=€200(約33,000円・現在換算値)もするという。
 彼女が訪れたリスボンの老舗レストランでは100g=8.76€(約1,500円)だったそうだ。

 世のなか、「亀の手」(カメノテ)を食べに飛行機に乗る、あるいは船に乗る、はたまた列車に乗る、という旅もあるのだ。
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