最近、「哀愁の街に霧が降る」(唄:山田真二、作詞:佐伯孝夫、作曲:吉田正)に凝っている、と書いたら、先週のある朝、起きたら世界は霧が充ちていた。
視界がぼやけているのだ。明らかに眼に異常をきたしている。哀愁の街どころではなく、暗澹とした街に霧が降っていた。
あいにくその日は日曜日だったので、翌日すぐに病院に行って診療してもらった。
人生、何が起こるかわからない。年をとると、明日の命も知れない。年をとらなくとも言えることだが。霧の中の、暗い日々を過ごすこととなった。
「……涙色した霧が今日も降る……」
ということで、1週間パソコンを見ず本を読まず文字も書かずに過ごしたのだった。
そして、世界にやっと少し霧が晴れてきた。
この間、一人暗鬱たる心を晴らすのは音楽だろう。
こういう暗澹たる気分はベートーヴェンならわかってくれるだろうと思い、この突然の悲運を心に刻もうと、交響曲第5番「運命」を聴くことにした。
しかし、心に響かない。次に聴いたのが、ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」。
「Pathétique」、僕の弱った悲愴な心に沁みたのだった。
*「Voyageボヤージュ 旅から生まれた音楽」
書いたまま放置していた、黄金週間のときに行った音楽の祭り、「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」2019(会場:東京国際フォーラム)を、遅ればせながら記しておこう。
この「熱狂の日々」の今年のテーマは、「Voyageボヤージュ 旅から生まれた音楽(ものがたり)」。
作家には、旅はいろんなインスピレーションと経験を与えるが、音楽家も同じことが言えるようだ。
モーツァルトはヨーロッパ中を旅しながら名作の数々を遺し、ハンガリーに生まれたリストはコスモポリタンとして音楽活動を行っている。そして、多くの作曲家によって、異国を題材にし、タイトルにした曲が数多く生まれている。
旅をしていて、国によって音楽の特性が違うのも面白い。このことは、別の機会に譲ることにしよう。
*9年ぶりに聴いた神尾真由子
世間では今年は10連休といわれている黄金週間の最中の5月3日、音楽の祭り「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」を楽しむために、東京国際フォーラムへ一人ぶらりと出向いた。
この季節、佐賀に帰ったときは有田の陶器市、柳川の水天宮祭りに行くのだが、東京にいるときは「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」がここのところ恒例としている。
この日、3つの公演を梯子した。
〇「さすらいの音楽」:ロマ&クレズマー×バラライカ!
・16:45 ~ 17:30 、会場:ホールB7
東欧からロシアまで:流浪の民の多彩な響きがこだまする、エキサイティングな音の旅
<出演>
シルバ・オクテット (室内楽)
アレクセイ・ビリュコフ (バラライカ)
室内楽団シルバ・オクテットに加えて、ロシアの代表的な弦楽器であるバラライカの奏者による演奏。ロシア民謡やロマ、クレズマー音楽は情熱的でエキゾチックだ。
バラライカは、ギターに似ているが共鳴胴の部分が三角形をしたもので、バラライカ奏者の表情豊かな顔と演奏は印象深いものだった。
〇「グランド・ツアー」:ヨーロッパをめぐる旅
・18:30 ~ 19:30、会場:ホールB7
選りすぐりのバロック音楽とともに、18世紀の若者の“自分探しの旅”を追体験!
<出演>」
別所哲也 (俳優)
アンサンブル・マスク (室内楽)
オリヴィエ・フォルタン (チェンバロ)
<曲目>
パーセル、ラモー、マレ、コレルリ、テレマン、バッハ……
別所哲也の朗読で、物語にのっとった音楽の旅といった構成。18世紀、イギリス貴族の若者たちの間で見聞を広めるため欧州各地を旅する “グランド・ツアー”が流行したという。当時書かれた書簡に着想を得て、ドーバーを発ち、パリ、ディジョン、そしてヴェネツィア、ローマを経てライプツィヒに至るまでの道のりを、音楽とともにたどっていくという趣向が面白い。
〇「チャイコフスキー ~スイスの湖畔で花開く華麗」
・21:15 ~ 22:05、会場:ホールA
大の旅好きだったチャイコフスキーがスイス・レマン湖畔で作曲した華麗なる協奏曲
<出演>
神尾真由子 (ヴァイオリン)
タタルスタン国立交響楽団 (オーケストラ)
アレクサンドル・スラドコフスキー (指揮者)
<曲目>
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
今回の音楽祭の僕の目当ての神尾真由子は、諏訪内晶子以来日本人2人目のチャイコフスキー国際コンクール、ヴァイオリン部門優勝者である。
僕は、当時佐賀に帰っていた2010年2月に佐賀市公会堂にて、日本フィルハーモニー交響楽団と共演した時に、初めて彼女の演奏を聴いたのだが、そのときのインパクトは強烈だった。彼女はまだ23歳で、曲はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調だったが、彼女の放つ熱気が会場いっぱいに溢れていた。
今回は、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調。今では、彼女はロシア人のピアニストと結婚しサンクトペテルブルグに住んでいて、1児の母だ。
視界がぼやけているのだ。明らかに眼に異常をきたしている。哀愁の街どころではなく、暗澹とした街に霧が降っていた。
あいにくその日は日曜日だったので、翌日すぐに病院に行って診療してもらった。
人生、何が起こるかわからない。年をとると、明日の命も知れない。年をとらなくとも言えることだが。霧の中の、暗い日々を過ごすこととなった。
「……涙色した霧が今日も降る……」
ということで、1週間パソコンを見ず本を読まず文字も書かずに過ごしたのだった。
そして、世界にやっと少し霧が晴れてきた。
この間、一人暗鬱たる心を晴らすのは音楽だろう。
こういう暗澹たる気分はベートーヴェンならわかってくれるだろうと思い、この突然の悲運を心に刻もうと、交響曲第5番「運命」を聴くことにした。
しかし、心に響かない。次に聴いたのが、ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」。
「Pathétique」、僕の弱った悲愴な心に沁みたのだった。
*「Voyageボヤージュ 旅から生まれた音楽」
書いたまま放置していた、黄金週間のときに行った音楽の祭り、「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」2019(会場:東京国際フォーラム)を、遅ればせながら記しておこう。
この「熱狂の日々」の今年のテーマは、「Voyageボヤージュ 旅から生まれた音楽(ものがたり)」。
作家には、旅はいろんなインスピレーションと経験を与えるが、音楽家も同じことが言えるようだ。
モーツァルトはヨーロッパ中を旅しながら名作の数々を遺し、ハンガリーに生まれたリストはコスモポリタンとして音楽活動を行っている。そして、多くの作曲家によって、異国を題材にし、タイトルにした曲が数多く生まれている。
旅をしていて、国によって音楽の特性が違うのも面白い。このことは、別の機会に譲ることにしよう。
*9年ぶりに聴いた神尾真由子
世間では今年は10連休といわれている黄金週間の最中の5月3日、音楽の祭り「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」を楽しむために、東京国際フォーラムへ一人ぶらりと出向いた。
この季節、佐賀に帰ったときは有田の陶器市、柳川の水天宮祭りに行くのだが、東京にいるときは「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」がここのところ恒例としている。
この日、3つの公演を梯子した。
〇「さすらいの音楽」:ロマ&クレズマー×バラライカ!
・16:45 ~ 17:30 、会場:ホールB7
東欧からロシアまで:流浪の民の多彩な響きがこだまする、エキサイティングな音の旅
<出演>
シルバ・オクテット (室内楽)
アレクセイ・ビリュコフ (バラライカ)
室内楽団シルバ・オクテットに加えて、ロシアの代表的な弦楽器であるバラライカの奏者による演奏。ロシア民謡やロマ、クレズマー音楽は情熱的でエキゾチックだ。
バラライカは、ギターに似ているが共鳴胴の部分が三角形をしたもので、バラライカ奏者の表情豊かな顔と演奏は印象深いものだった。
〇「グランド・ツアー」:ヨーロッパをめぐる旅
・18:30 ~ 19:30、会場:ホールB7
選りすぐりのバロック音楽とともに、18世紀の若者の“自分探しの旅”を追体験!
<出演>」
別所哲也 (俳優)
アンサンブル・マスク (室内楽)
オリヴィエ・フォルタン (チェンバロ)
<曲目>
パーセル、ラモー、マレ、コレルリ、テレマン、バッハ……
別所哲也の朗読で、物語にのっとった音楽の旅といった構成。18世紀、イギリス貴族の若者たちの間で見聞を広めるため欧州各地を旅する “グランド・ツアー”が流行したという。当時書かれた書簡に着想を得て、ドーバーを発ち、パリ、ディジョン、そしてヴェネツィア、ローマを経てライプツィヒに至るまでの道のりを、音楽とともにたどっていくという趣向が面白い。
〇「チャイコフスキー ~スイスの湖畔で花開く華麗」
・21:15 ~ 22:05、会場:ホールA
大の旅好きだったチャイコフスキーがスイス・レマン湖畔で作曲した華麗なる協奏曲
<出演>
神尾真由子 (ヴァイオリン)
タタルスタン国立交響楽団 (オーケストラ)
アレクサンドル・スラドコフスキー (指揮者)
<曲目>
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
今回の音楽祭の僕の目当ての神尾真由子は、諏訪内晶子以来日本人2人目のチャイコフスキー国際コンクール、ヴァイオリン部門優勝者である。
僕は、当時佐賀に帰っていた2010年2月に佐賀市公会堂にて、日本フィルハーモニー交響楽団と共演した時に、初めて彼女の演奏を聴いたのだが、そのときのインパクトは強烈だった。彼女はまだ23歳で、曲はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調だったが、彼女の放つ熱気が会場いっぱいに溢れていた。
今回は、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調。今では、彼女はロシア人のピアニストと結婚しサンクトペテルブルグに住んでいて、1児の母だ。