写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

眼瞼下垂(がんけんかすい)

2020年02月11日 | 生活・ニュース

 2カ月ぶりに旧友が立ち寄ってくれた。眼鏡をかけている顔を見ると、少しだが瞼(まぶた)が腫れて見える。そんなことを尋ねる前に、本人が話し始めた。

 「つい1週間前に、形成外科で瞼の手術をした。両眼とも上瞼が垂れ下がってきて、視野が狭くなったので手術をした」。そんな病気の名前を聞くと「眼瞼下垂症」だという。

 瞼を引っ張り上げる筋肉が加齢によってたるみ、垂れ下がってきて見えにくくなる病気で、瞼の皮膚を切開して短縮し、まぶたを引き上げる手術をすれば治ると話す。

 テレビを見ているとき、画面の上半分が暗くなって、見えなくなってきたので気がついたという。健常者でも、薄目をして景色を見ると、視野の上半分が暗くなって見えなくなるが、これと同じ状況が起きる。

 昨年の暮れ、歌手の和田アキ子がこの病気で手術をして、まるで印象の違う顔になっていたことを思い出した。術後1カ月ばかりは瞼が腫れて、顔の印象が変わるというが、この旧友はごく自然に見える。

 そういえば、いろいろな機会に集合写真を撮ってもらうことがある。出来上がった写真を見るたびに、高齢者の目がみんな小さく優しい表情で映っている。笑顔をしているせいだけではなく、若干は加齢による眼瞼下垂症の嫌いはあるのだろう。

 眼瞼下垂症といえば病名になるが、年相応の優しい眼もとになっていると解釈すれば、瞼のたるみもこれまた一興かな、といえる。「人間万事 塞翁が馬」である。何ごとも良いように解釈したい。

 


1日3しょく

2020年02月09日 | 生活・ニュース

 子供のころから栄養素のバランスがとれた食事を、腹八分目を心がけ「1日3食」食べることは、活動に必要なエネルギーや栄養素を補うだけでなく、生活リズムを整える点でも重要なことだと教えられてきた。

 そんな「1日3食」の話ではなく、「1日3しょく」というおもしろい記事を新聞で読んだので紹介したい。

 「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さん(87)は、モノゴトの本質をずばっと言い表す言葉の魔術師である。最近はやりの「人生100年時代」や家族が機能しなくなった現代を「ファミレス時代」と名付けたりしている。

 後期高齢者になってから、視力は衰え歩く速度は落ちるばかり。ヨタヨタ、ヘロヘロしているから今は「ヨタヘロ期}だという。では、人生の最終盤の弱っていく時期、「ヨタヘロ期」の心構えは何か?

 これからは「3しょく」が大事である。①「食」、まずきちんと食べる ②「職」、人の役に立つことをする ③「触」、仲間を作って触れ合うこと。

 今、ここまで書いて、ふとヨタヘロ期に入っている我が身を振り返ってみた。まず「食」である。栄養素のバランスは奥さんの腕に任せっきりではある。1日3食、食べる量は若いころに比べて減ってはいるが、まずはきちんと食べている。

 「職」は、稼ぎができるような職はないが、ごく限られた人の役に少しは立つようなことを、趣味の同好会の活動を通してやっているといえばやっていると言えるか。職に関してはもう少し努力を要する。

 最後の「触」に関しては、昨年末にエッセイの同好会を解散した。仲間と触れ合う機会を自ら断ち切ったばかりである。これからは「岩国時遊塾」を通しての新しい仲間づくりに努力したいと思い始めている。

 今年は、この「1日3しょく」を目指して頑張ってみたいが、「1日3食」をきちんとこなす食い意地の張っただけのヨタヘロとならないように心掛けたいものである。

 


重箱の隅

2020年02月07日 | 生活・ニュース

 月に1~2回、話に来てくれる知人がいる。地域のボランティア活動を6年間やったときの仲間である。旅行が好きな人であったが、最近は「体力が衰えてきたので、あまり行く気がしなくなった」と、少し弱気なことを言い始めた。

 ところが、先日やって来た時「今度、1泊どまりの旅行に行ってみることにした」と言う。少し元気が出たようである。しかし、この発言を聞いたとき、気になったので一言注文を付けてみた。

 「『1泊どまりの旅行』という言葉を漢字で書くと『1泊泊まりの旅行』となり、泊という字が重語になるので『1泊旅行』というだけでいいですよ」と言うと「そう言えばそうですね」と直ぐに理解してくれた。

 話し言葉で聞くとおかしいことに気がつきにくいが、文字で書いてみるとおかしいことに気がつく言葉は結構ある。昔から言われている「馬から落馬して」は有名な重語であるが、最近テレビのアナウンサーでも「一番最初に……」という言い方をしているのをよく聞く。

 「最初」と言えば「1番初め」のことなので「1番最初」という言い方は文字は異なるが重語になる。「後で後悔する」も、この範疇の間違った言葉の使い方である。

 ここでひとつ、違和感を覚える言葉があることに気がついた。プロ野球のセ・リーグの球団の名前である。広島カープ、ジャイアンツ、ベイスターズ、ドラゴンズ、スワローズ、タイガースとある。英語では、カープは単複同形なのでカープでいいが、その他の球団名には語尾に複数を表すSがついて「ス」や「ズ」と発音する。

 ところがタイガースは、英語の発音としては語尾が無声音ではないので「タイガーズ」と言うのが正しいと学校で習ったが、みんな「タイガース」と発音している。言葉も「みんなで渡れば怖くない」の現象なのか。

 今国会では「桜を見る会」で与野党の実りのない論戦が行われているが、当の安倍総理が「募集する」と「募る」とは意味が違うと言い張る有り様。いつぞや「云々(うんぬん)」を「でんでん」と読んだ人に、言葉を正確に話してくれと言うのは、土台無理なことかもしれないと思いながら、国会の言葉遊びを重箱の隅をつつきながら見ている。

 

 


テレビのインタビュー

2020年02月05日 | 生活・ニュース

 朝9時半に所用のため奥さんと広島に出かけた。用事を済ませた後、本通りの商店街をウインドウショッピングをしながら歩いていた。少し歩いたとき、私の進路を妨げるように突然若い女性が現れた。

 ちょっとひるんで立ち止まり、よく見ると手にマイクを持っていて、2人の男との3人組である。男の1人はテレビカメラを構えている。女性が「広島テレビですが、ちょっとお話を伺ってもよろしいでしょうか?」という。一瞬たじろいだが「ええ、どうぞ」と答えていた。

 「今、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染が急激に広がっていますが、何か対策はしていますか?」「現在特に対策は取っていません」。続いて「感染拡大に対してどう感じていますか」「政府に対してどんなことを要望しますか?」などと、結構難しい質問をいくつもしてくる。

 一応すべての質問に答えた後、「メディアは適切な情報を早く伝えてほしいですね」と要望したところでインタビューを終えた。

 テレビのニュースを見ているとき、街頭でインタビューされているシーンは何度も見てきたが、まさか私が受けるとは思ってもいなかった。あらかじめ考えてもいないことを突然聞かれて答えるということの難しさがよく分かった。

 ところが外国人はこんな時、雄弁に答えることが多い。私を含めて日本人は往々にして口が重い。というよりは、確たる自分の意見を人前で述べるということに慣れていない人が多いと思いながらテレビを見ていた。

 思いもかけずこんな体験をしたが、しどろもどろのインタビューが、今夕のニュースで果たして流されるかどうか。楽しみ半分、怖さ半分という所で待っていた。

 午後6時15分からの広島テレビでニュースを見た。最初にコロナウイルスのニュースで、本通りでのインタビューが映し出された。なんと私の顔が画面いっぱいに映し出され、最後に放った言葉が字幕で出たのには驚いた。たった5,6秒の時間であったが、生まれて初めての体験を冷や汗を流しながら見ていた。


冬はつとめて

2020年02月04日 | 生活・ニュース

 今日2月4日は立春。「暦の上では今日から春になります」と、テレビで気象予報士のお姉さんが笑顔で伝えている。手帳を繰ってみると、この地方では一昨年の冬は少し雪が積もった日があった。昨年は2度ばかり北の空から風花が舞ったことを記録している。

 そしてこの冬である。風花どころか、冬だというのに花は花でも、桜やヒマワリが狂い咲きをしたとか。そんな暖冬で雪を見るようなことはなかったが、明日から遅まきながら強烈な寒波が押し寄せるという。

 早春賦の歌詞ではないが、立春を迎えてやっと「春は名のみの風の寒さや」と、冬の寒さを実感できそうである。四季それぞれの良い時間帯を清少納言が枕草子で書いている。

「春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ、冬はつとめて」というが、「つとめて」という言葉の意味が分からない。調べていると「はやい、つとに」という意味で、漢字では「夙めて」と書いて「早朝」の意味だという。凛とした早朝の冷たい空気なんぞ、温暖化した今の世の中では味わうことが出来なくなってきた。

 温暖化の取り組みは、日本を含む先進国が自ら範を示さなければいけないが、国民一人一人が何をすべきかを、法規制などで国がはっきりと示さなければいけない。日常生活で便利ばかり追求している国民が不便を耐える覚悟がいる。「お互い努力しましょう」という掛け声だけで済む時代ではなかろうと思う。