プロ野球を代表する往年の名捕手で3冠王にもなり、監督として3度の日本一に輝いた野村克也さんが84歳でなくなった。現場を離れた後は解説者として、「ぼやき」と呼ばれた独特の口調と、率直かつ的確な指摘が好評だった。
毎日新聞では、1面に大きく記事が載せられているだけではなく、「余禄」というコラムや「社説」にも、またスポーツ面では2ページにわたり、3面記事である社会面では1面全部を使って、実績や人となり、数々の名言が掲載されている。
最近ではまれに見る大きな扱い方は、いかに多くの人に愛され尊敬された野球人であったかという証ではなかろうか。それらの記事を丁寧に読んでみた中で、知っていたことや初めて知った言葉があったが、特に印象に残る言葉を記してみたい。
「人や集団を動かすものは言葉しかない。ほかに何があるんですか」が口癖だった。「野球は気力1分、体力1分、残り8分は頭なんや」といって、「ID」野球にこだわった。試合後、記者に対してぼやいていたようであるが「グチは不満を表すもの、ボヤキは理想と現実の差を表現するものと」いい、あれはボヤキであったという。
社説には、「野球の奥深さを伝えた知将」と題して書いてある。「若いころから分析力にたけていた」といい、極め付きはデータ尊重の野球を浸透させて結果を出した。好んで使った言葉に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」といい、偶然の勝ちはあるが、負ける時には必ず原因があると説いた。
著書である「野村ノート」には、「人生」の2文字から4つの言葉を発想すると書いている。「人として生まれる」(運命)、「人として生きる」(責任と使命)、「人を生かす」(仕事、チーム力)、「人を生む」(繁栄、育成、継続)。野球に限らずどんな職業にも通用する言葉である。
単に野球だけでなく、野村さんには人生の生き方も教えてもらったことになる。天国でもあの口調でボヤキ続けて下さい。ありがとうございました。