写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

雨 蛙

2005年05月20日 | 生活・ニュース
 十年も前から、我が家の周りから田んぼや小川がなくなっていった。大きな建物や立派な駐車場が出来たりで、地面がアスファルトに変わっていった。

 以前にはこの季節、ベッドに入ると喧しいほど聴こえていた「げろげろ ぐぐー」という心地よい蛙の歌は今は聞くことはない。

 先日、利息の付かない預金を引き出すために駅前の銀行に出向いた。駐車場に車を止めて裏口から入ろうとした。

 ビルの谷間になった日陰に、エアコンの室外機が置いてあり、その上に一匹の雨蛙が陶器の置物のようになって座っていた。

 そういえば鳥獣戯画以外、蛙が立っている姿なんぞ見たことがない。手の内を見せないよう、両手は胸の下に隠している。

 老眼鏡でもはっきり見える至近距離に顔を近づけても平静を装い、よそを向いたりはしない。首がないから向けないのか・・・。

 お礼の気持ちで一枚デジカメに収めた。更にアップで撮ろうと近づいた時、ぴょんと跳ねて小さな植え込みに紛れていった

 今迄しみじみと蛙の目なんぞ見たことはなかったが、良く見ると、本当に優しい目をしている。私のようにいつも微笑んでいる。

 見方によっては達観した高僧のように見えなくもない。あんなビルの谷間に生活の基盤を置くなんて、どんな心境からだろう。

 その晩ベッドに入ったとき、遠くから微かに懐かしいなき声が聞こえてきた。果たして何がコウソウしているのやら。ケロケロ。
  (写真は、久しぶりに会った高僧「雨蛙」)