写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

ふたりの同窓会

2005年05月22日 | 生活・ニュース
 先日、中学校の同窓会が開催された。卒業して50年という節目。思っていた以上に大勢が出席すると聞いていたが、私は所用のため、残念ながら欠席せざるを得なかった。

 その1週間前に、1本の電話が掛かってきた。結婚してアメリカに嫁いで行った幼なじみの女性からであった。

 同窓会のために、久しぶりに帰国したという。翌夕、駅前の寿司屋でふたりでミニ同窓会をした。懐かしい昔話と少しの酒で、時間はあっという間に過ぎていった。

 数日後、彼女が帰る日が来た。その日、新幹線の駅まで車で送って行く約束をしていた。

 駅へ向かう途中のレストランで、ノンアルコールのビールで乾杯し、同窓会の話を聞きながら軽いランチをとった。

 田舎の新幹線駅の乗客は僅か3人しかいない。握手をした後、彼女はがら空きの自由席に座り、私に向かって軽く会釈をする。

 動き出した窓に向かって私は小さく手を振った。4両編成の短いこだまは、すぐにトンネルに入っていった。

 見送ったあと、地球の遥か彼方に帰って行く友のことを思いながら、駅の階段を下りた。

 何があった訳でもないのに、鼻の奥がつんとしてきた。止めていた車に乗ろうとした時、降りた時には全く気がつかなかった小菊のような花が、優しく私のほうを向いて咲いていた。
  (05.5.15毎日新聞「男の気持ち」掲載)