「おかしいわねぇ、換気扇がゆっくりとしか回らないわ」。朝食を作るため台所のガスレンジの前に立っている奥さんがつぶやいた。読んでいた新聞から眼を放して換気扇を見ると、けだるそうにゆっくりと回っている。「家を建てたとき以来、もうずいぶん長いこと使ってきたからなぁ」と思いながら点検してみた。
昨年末に掃除したきりの換気扇には油が付いている。回転が遅いのも油が固着したからか?などと思いながら、ひものついたスイッチを何度も引っぱってみるがいつものように回転しない。ゆっくりと回るのは、開口部から入ってくる空気の流れで回っているにすぎない。「長い間使ってきたから、もう取り換えよう」。意見は一致し、ホームセンターに向かって買いに出かけた。
今あるものと全く同じ型式の商品があったので、それを買って帰った。「さあ、久しぶりに換気扇がきれいになるぞ」「わぁ、うれしいわ」。新婚ほやほやの夫婦のような会話をしながら新しいものを取り付けた。ガスレンジの台に片足を乗せた中腰の状態で古い換気扇を取り外し、2本のねじを締める簡単な作業をするだけで、新しいものの取り付けを終えた。
さあ、試運転だ。眼を大きく開けて、おもむろにひも付きスイッチを引っ張ってみた。ところが、どういう訳かうんともすんとも回らない。???。換気扇のケーブルはちゃんと壁のコンセントに入っている。それなのに回らない。もう一度コンセントに眼をやると、このコンセントにはスイッチが付いていた。それがオフになっているではないか。
今まで何度も換気扇を回すことがあったが、いつもひも付きスイッチを引っ張ることでオン・オフさせてきた。コンセントの元スイッチなど触ったことがないばかりか、元スイッチがあることさえ認識してはいなかった。「これかぁ」と言いながら元スイッチを入れると、当たり前のことだがブーンとうなりながら換気扇が回り始める。
壊れたと思った換気扇を取り付けてみると、これもいつものように勢いよく回り始めた。奥さんと顔を見合わせて大笑い。新しく買ったやつは年末に取り替えることにして物置にしまった。何かの拍子に切れていた元スイッチに気が付かず、壊れたものと早合点。早とちりの癖は、まだまだ健在であることが分かった。