写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

真夏の挑戦

2011年08月11日 | スポーツ・山登り・釣り・遊び

 所用のため奥さんと2人、昼前から車で広島に出かけた。用事を済ませ帰路についた。ナビを見ると自宅まで41㎞と出ている。国道2号線のバイパスを抜け、宮島口そして大野浦を通り過ぎた。やがて左手に海が現れ、遠く岩国の臨海工業地帯の煙突群が薄曇りの空の下で海に浮かんで見える。

 宮浜温泉のホテルの前の空き地に車を止めた。海では若者が水上スキーやジェットスキーで楽しそうに遊んでいる。水上スキーはバランスを失って何度も沈むが、それがまた楽しそうだ。それを見ていたとき「よし、今日はここから家まで歩いてみよう」と、なぜかとんでもないことに挑戦してみることにした。

 空は曇り、真夏ではあるがそんなに暑い日ではない。車は奥さんに乗って帰ってもらった。やおら歩きだした。時計を見ると3時15分。「家までの距離はどれくらいあるだろう? 15㎞くらいか。 それなら4時間もあればたどり着けるかも」そんなことを考えながら歩を進めた。

 1時間も歩いたころ玖波の町に入った。のどの渇きはまだ感じないが、何といっても水は十分に補給しなければ熱中症になりかねない。ポケットに手を入れたが財布を持っていないことに気がついた。しかし、まあいい。コンビニか公園や駅で水を補給すればお金はいらない。まずは公園の蛇口で水を多めに飲んだ。浮浪者のようなことをしながら国道を外れた山側の内道を歩き、ひたすら岩国を目指してただ歩く。

 木陰を見つけては休みながら2時間が経った頃、やっと大竹の町に入った。車では何度も走ったことのある街も、ゆっくり歩いてみると新しい発見がいくつもある。街の中を流れる小川には30匹もの大きな錦鯉が泳いでいる所があった。思いがけない史跡も見つけ勉強にもなった。3時間が経ったころ、ようやく県境の大和橋を渡る。30分に1回の休憩だったものが、15分に1回くらいに増えて来た。

 3時間半が経った頃、宮浜温泉から見たときには遥かに霞んで見えていた工場の煙突の近くを歩いていた。陽は落ち、辺りはすっかり夕暮れの気配。太ももの裏に少し痛みを感じ始めたが、まだ大丈夫。歩く速度はかなり落ちている。4時間が経った7時過ぎ、やっといつもの散歩コースの折り返し点まで帰りついた。大きくひと安心をする。もう大丈夫。7時44分、無事家にたどりついた。

 シャワーを浴びて、ネットの地図で歩いた距離を調べてみた。15.9㎞あった。この年になって、わが生涯で最長距離を、この暑い夏にたったひとりで歩破した。何が悲しくて歩く気になったのか? 今考えてみても、私にも分からない。今の体力を確認してみたかったからか。無事で何よりの少し無謀な15.9㎞でもあった。