写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

婦唱夫随?

2011年08月09日 | 生活・ニュース

 帰省してきた孫を連れて、錦帯橋の花火大会に行った。翌日の新聞によると、12万人の人出と書いてある。どうりで立錐の余地もないほど河原は人でごった返していたはずだ。

 8時から始まった花火も30分も見ればまあ同じことの繰り返し。孫は退屈になって来たのか私の手を引っ張る。引かれるままに人混みをかき分けながら夜店をめぐって歩いてみた。あるわあるわ、いろいろな店が出ている。焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、かき氷、フランクフルト、いか焼き、ビール、から揚げ、肉巻きおにぎり、飴リンゴ、綿菓子、スマートボール、金魚すくい、お面、射的、輪投げ、くじ引き、おもちゃなどなど。

 金魚すくいの前に来たとき孫が立ち止まった。一言「これがやりたい」。広い水槽の中で飾りっけのない小さな金魚が泳いでいる。手渡されたすくい網は2、3回水の中で手を動かしただけできれいに破れてしまった。1匹もすくうことなく終わると、店主は2匹をポリ袋に入れて孫に渡す。世の中こんなもんだよと、私が教えてやらなくても厳しい世間が丁寧に教えてくれる。授業料は300円。

 家に持ち帰ったが、孫は釣った魚同様に、もらった魚に興味はない。手持ちの水槽を納戸から持ち出して入れてやった。翌日帰っていく孫に「金魚はもって帰らないのか」と言うと「ここで飼って」とのたまう。カブトムシには執着するが、もらった金魚に思い入れはないようだ。

 おかげでその日から、毎日金魚の世話という仕事が舞い込んできた。裏庭の木陰に置いた水槽の中で2匹が気持ちよさそうに泳いでいる。エサをやった後しばらく眺めてみた。1匹が左に行くと直ぐにもう1匹が後を追う。右に向きを変えるとまた直ぐ後を追う。見ていると恋人同士か仲睦ましい夫婦のようにも見える。

 多くの金魚の中から、たまたますくわれた2匹なのに、小さな水槽の中でこんなに仲良くやっている。これぞ夫唱婦随と言うものか。ハートリーが亡くなった後、何かと小さな諍いが絶えなかった我が家であったが、孫が残した金魚から、忘れかけていた言葉を思い出さされた。ただし我が家に限っては「夫唱婦随」ならぬ「婦唱夫随」と書いておこう。