写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

わすれられない おくりもの

2011年08月16日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 ハートリーが逝って2か月が経とうとしている。他人から見れば、たかがペットではあるが、10年間も一緒に過ごせば家族同然、抜けた穴は思いのほか大きいことを思い知る。

 家の中の各所につけられた汚れや傷跡も、今となってはただ懐かしく思えるばかりだ。未だ淋しさを引きずりながら過ごしているとき、幼馴染の友から平べったい小包が届いた。開けてみると1冊の絵本に手紙が添えてある。「少しずつ少しずつ……でしょうか?」と書き出して、ハートリーへの追悼の言葉が書いてある。

 悲しみを共感してくれる優しい言葉が嬉しい。絵本に目をやった。表紙には「わすれられない おくりもの」と題し、アナグマの前にカエル、キツネ、ウサギなどの身近な動物が行列を作って並んでいる絵が描かれている。スーザン・バーレイ作絵、小川仁央訳、評論社の本であった。

 本の見開きに「まわりのだれからも、したわれていたアナグマは、年をとって死んでしまいました。かけがえのない友を失ったみんなは、どう、悲しみをのりこえていくのでしょうか……」と書いてある。

 すぐに読んでみた。賢かったアナグマは物知りで、みんなに頼りにされていた。困っている友を助けたり、遊びや料理などの知恵や工夫や技術などを教えた。そのアナグマが死んでしまい悲しみに沈んでいた動物たちは、時が過ぎるにつれ、アナグマが残してくれたものの豊かさで、悲しみが少しずつ消えていった。アナグマは物を残した訳ではない。心に残る楽しい思い出を、みんなで話し合うことで悲しみが癒えていった。

 子供向けの絵本であるが、大人の私にもよく伝わってくる物語である。アナグマをハートリーと読み替えてみた。同じように豊かな思い出を、最近は少しずつ奥さんやハートリーを知っている人と楽しい思い出として話し合えるようになってきた。

 この年になって、私は絵本に教えてもらった。こんな絵本を見つけて贈ってくれた友に、ただ感謝である。